療育手帳を取得するメリットは?交付対象や区分、割引サービス、申請方法

福祉サービスを利用したい方

障害者福祉制度によって交付される療育手帳。この手帳があれば、知的障害のある方が就労支援や生活に役立つサービスを受けられるようになります。

もしもご家族やご自身が交付対象であるならば、申請を考えた方がよいかもしれません。

この記事では、療育手帳の交付対象や取得することで得られるメリット、申請方法について解説していきます。

 

療育手帳とは

療育手帳とは障害者手帳のひとつで、各自治体が交付するものです。

 

知的障害のある人に交付される障害者手帳

「療育手帳」は、知的障害のある方が障害者総合支援法による障害福祉サービスなどを受けやすくなることを目的としてつくられたものです。

しかし法律で定められた制度ではないため、その運用方法や支援内容は各自治体によって異なります

そのため、取得することで受けられるサービスや申請方法などの詳細は、お住まいの自治体の障害福祉相談所担当窓口に問い合わせることをおすすめします。

 

取得対象者の目安

療育手帳の主な取得対象者は、知的障害があり、その状態が続いている18歳未満の未成年です。

多くの方が、子供の頃に知的障害があると判断された段階で、自治体に手帳の申請を行っています。

また、18歳以上でも、以前から症状がありながら療育手帳を申請していなかった、大人になってから知的障害があることがわかったという場合、手続きが可能です。

ただし、大人になってから病気や事故で知的機能に障害を負った場合は、療育手帳の交付対象にはなりません。

ほか、自治体ごとに判断は異なりますが、基本的な取得基準は以下の通りです。

  • 知能指数(IQ)が70以下(※自治体によっては75以下がボーダーラインの場合も)
  • 障害による日常生活への支障があり、教育・就労・医療などの支援が必要とされる

詳しい判断基準や疑問に関しては、お住まいの市町村の福祉総合支援センターや保健福祉センター福祉業務担当、保険福祉課の担当窓口などでご相談ください。

 

等級がある

療育手帳は障害の程度によって等級が分かれます

等級ごとで受けられる支援も変わるため、詳細はお住まいの自治体の申請窓口に問い合わせましょう。

各自治体における療育手帳の等級区分(参考)

【北海道】
障害の程度は、軽度、中度、重度、最重度の4段階に分けられる。
療育手帳は重度・最重度をA、中度・軽度をBに区分。
出典:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sss/ryikutetyounituite28sin.htm

【東京都】
年齢も考慮し総合的に判断された知的障害の程度から、1度(最重度)、2度(重度)、3度(中度)、4度(軽度)の4つに区分される。
出典:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/jicen/ji_annai/a_techou.html

【千葉県】
知能指数と日常生活での介助の必要性などから総合的に判断した上で、以下のように区分される。
Ⓐ(最重度)、Aの1・Aの2(重度)、Bの1(中度)、Bの2(軽度)
出典:https://www.pref.chiba.lg.jp/shoufuku/techou/documents/ryouikutechou-youkou.pdf

【埼玉県】
Ⓐ(最重度)、A(重度)、B(中度)、C(軽度)の4区分
出典:https://www.pref.saitama.lg.jp/rihasen/annai/green-techou.html

【神奈川県】
A1(最重度)、A2(重度)、B1(中度)、B2(軽度)の4区分
出典:https://www.pref.kanagawa.jp/documents/44065/seidoannai.pdf

【愛知県(北名古屋市)】
A判定(IQが35以下で常時介護が必要、あるいは身体障害者手帳1級~3級の方はIQ50以下)
B判定(A判定該当者以外で、IQ50以下)
C判定(IQ51~75以下)
出典:https://www.city.kitanagoya.lg.jp/syakaifukushi/2600014.php#a02

【大阪府】
A(重度)、B1(中度)、B2(軽度)の3区分
出典:http://www.pref.osaka.lg.jp/jiritsusodan/titeki/ryouikutechonituite.html

【兵庫県(三田市)】
IQと生活・看護・行動面から総合的に判断し、A(重度 ~IQ35)、B1(中度 IQ36~50)、B2(軽度 IQ51~75)の3区分に分けられる
出典:https://www.city.sanda.lg.jp/soumu/documents/jouhoukyouyu_shiryof-5.pdf

【福岡県(福岡市)】
A1(最重度)、A2(重度)、A3(中度かつ身体障害者手帳1~3級)、B1(中度)、B2(軽度)の5区分
出典:https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/zaitakushien/qa/FAQ2257.html

 

B1とB2の違い

このように自治体によって療育手帳の区分はさまざまですが、中度~軽度の場合はB区分に分けられるのが一般的です。

さらに、中度はB1、軽度はB2に分けられることが多いです。

神奈川県の例を参考にその違いを詳しく見てみましょう。

神奈川県における知的障害の区分はA1~B2の4段階に分けられています。

そのうち中度と軽度がB区分として扱われますが、基本的にはIQが主な判断基準となります。

知能指数(IQ)が36以上50以下の場合はB1(中度)、IQ51以上から75以下であればB2(軽度)として判断されます。

他の自治体においても軽度の区分に該当するものは、IQ51以上を判断基準にしているケースがほとんどです。IQが50を超えるか以下かは療育手帳の中度・軽度におけるひとつの目安になるといえるでしょう。

とはいえ、全体的な区分についてIQだけで画一的に判断されるわけではありません。

神奈川県の場合は境界線級の知能指数であっても自閉症の診断があればB2、あるいはIQがB1相当であっても身体障害があればA2(重度)に区分されるなど、総合的に判断されることが多いです。

 

発達障害の場合も取得できるケースがある

療育手帳は発達障害の場合でも同時に知的障害がみとめられた場合は取得対象になる可能性があります。

また、知的障害のない発達障害の方でも、精神障害者保健福祉手帳を取得できるケースがあります。

発達障害により生活に支障が起きている場合は、療育手帳や精神障害者保健福祉手帳の交付を受けられるかもしれないので、必要とする方は申請してみましょう。

ただし、発達障害と判定されるのは、初診から6カ月ほど通院し続け、症状が継続していることを医師が確認している場合になります。

 

療育手帳を取得するメリット

乗り物を待つ少年

続いては、療育手帳を取得することで得られるメリットや福祉制度についてご紹介します。

障害者控除が受けられる

療育手帳が交付されている方は、税金の障害者控除を受けることができます。

交付を受けている方が被扶養者の場合は扶養者の税金が控除対象です。

給与所得の場合は年末調整時に申請すれば、所得税や住民税から控除されます。

さらに、療育手帳があれば手当金が支給されたり、博物館や美術館などの公共施設や遊園地、映画館などの娯楽施設で割引を受けられることも多いため経済面でのメリットが大きいといえるでしょう。

 

子供の場合、加配申請がスムーズ

療育手帳の取得者が子供の場合、園や学校での加配申請(園や学校での障害児の生活を支えるべく配慮を加える補助の先生を付けてもらうための申請)がスムーズになります。

加配申請のためには医師の診断書をはじめたくさんの書類が必要ですが、手帳があればこれらの手間をある程度省くことができます。

一例として、自治体によっては療育手帳のコピーで申請が済むケースもあるようです。

 

成人の場合、就労支援が役立つ

成人の場合、療育手帳があれば適切な就労支援が受けられるようになります。

例えば、一般企業への就職を目指すために知識やスキルを身につけることをサポートする就労移行支援や、一般企業で働くことが難しい方に働く機会を提供する就労継続支援などです。また、障害を配慮された環境で仕事ができる障害者雇用枠での就職も可能です。

就労先が見つからない、一般企業での仕事は合わなくて辞めてしまう、と困っている方にとっては大きなメリットとなります。

 

デメリットはある?

経済面や就労などでメリットの多い療育手帳ですが、デメリットはあるのでしょうか。

というと、基本的にはないといえます。

しかし、人によっては「知的障害者である」というレッテルを貼られたような気分になる、我が子の障害を認めざるを得なくなるなど、精神的な面でのマイナスはあるかもしれません

とはいえ取得は義務ではなく、取得したとしても必ず周囲に知らせる必要もありません。

療育手帳を取得するかどうかは、障害の程度やサービスの必要性など、個人の状況や心情に合わせて判断することをおすすめします。

 

療育手帳で得られる割引事例

療育手帳で受けられる代表的な割引事例は以下の通りです。

乗り物

療育手帳があれば、基本的にほとんどの交通機関で割引を受けることができます。

・JR

療育手帳を提示することで、普通乗車券・定期乗車券・普通回数乗車券・普通急行券の割引が受けられる。

ただし等級区分によっては割引対象外の場合もあるため注意が必要。

乳幼児の場合は同伴の保護者(介護者)が割引になります。

出典:https://www.jr-odekake.net/railroad/service/barrierfree/discount/

・バス

東急バスの場合、普通運賃の場合は乗車時、定期券の場合は購入時に療育手帳を提示すれば、普通運賃は半額、定期券は3割引きで購入可能。
同伴の介護者(※原則1名)も同等の割引が適用される。

出典:https://www.tokyubus.co.jp/route/ticket/fare/disability.html

・タクシー

療育手帳の提示で、全国のタクシー代金が1割引きになる。
自治体によってはタクシー利用券を交付しているところも。

・飛行機

ANAの場合、療育手帳の提示で本人(※満12歳以上)と同伴の介護者(※一人まで)が割引運賃で搭乗できる。

本人が小児の場合も同伴の介護者に割引適用可能。

出典:https://www.ana.co.jp/ja/jp/book-plan/fare/domestic/guide/detail/hf.html

ホテル

都道府県や市区町村が運営する宿泊施設では、療育手帳などの障害者手帳を提示すれば割引価格で宿泊できるところが多い。

また、神奈川県相模原市のように、自治体によっては宿泊施設を利用する際に申請することで、助成金を受けられる場合もある。

出典:https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kurashi/fukushi/shogai/service/1006510.html

娯楽施設

娯楽施設で受けられる割引の例は以下の通りです。

・映画

障害者割引を適用している映画館は多い。例えばTOHOシネマズでは療育手帳を提示すれば1000円での鑑賞が可能(※ただし他割引との併用は不可)。

出典:http://help.tohotheater.jp/faq/show/1741?back=front%2Fcategory%3Ashow&category_id=309&page=1&site_domain=default&sort=sort_access&sort_order=desc

・遊園地

遊園地や水族館でも障害者割引を設定しているところが多い。

例えば、富士急ハイランドは療育手帳提示でフリーパスやアフタヌーンパスが割引に、八景島シーパラダイスではアクアリゾーツパスを5割引きで購入可能。

出典:
https://www.fujiq.jp/ticket/detail.html
http://www.seaparadise.co.jp/price/

 

療育手帳の申請

申請書をペンで記入

療育手帳交付申請の大まかな流れを紹介します。

申請に必要なもの、流れ

療育手帳の申請は、住所地あるいは居住地の市区町村で行います。

東京都で申請する場合、18歳未満の場合は児童相談所、18歳以上であれば東京都心身障害者福祉センターまたは多摩支所で交付可否の判定を受ける必要があります。

まずは電話で予約をしましょう。

判定の結果、該当と判断されれば1~2か月後に療育手帳が交付されます。

 

【必要なもの】(※東京都の場合)

  • 印鑑
  • 健康保険証など本人確認ができるもの
  • 写真(タテ4㎝×ヨコ3㎝)
  • 手帳類(他の障害者手帳が交付されている場合)
  • 母子手帳
  • てんかんや精神疾患で通院中の場合は、診療情報提供書やお薬手帳など

出典:https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/smph/shinsho/faq/techo_qa/moushikomi.html

 

18歳以上での申請の場合

18歳以上の方が申請する場合は上記以外に18歳未満から知的障害があったことを示すための資料を求められる可能性があります。

自治体によって判断が異なるため、事前にお住まいの市区町村に問い合わせてください。

千葉市の場合、客観的な資料として以下のようなものを求められることがあります。

市役所などの療育手帳担当窓口に申請書を提出後、上記の必要な資料等を準備します。

担当者より連絡後、知的障害者更生相談所などにて指定の日時で判定・面接・診察を受け、可となったら申請者に療養手帳が交付されます。

 

判定テストはどんなもの?

療育手帳を交付する前には、該当者かどうかを判断するための「判定テスト」が行われます。

判定には2~3時間かかることもあります。

そのため基本的にどの自治体でも、療育手帳申請の際に判定の予約を受け付けています。

判定は専門の心理判定員や小児科医が行います。

IQや医学的見地、面談での様子や客観的資料などをもとに総合的に判断されることが多いです。

 

療育手帳の更新

障害程度や支援の必要な範囲は時間経過とともに変わることもあります。

そのため療育手帳は一度取得したとしても、数年ごとの更新が必要です。

 

何年ごとに必要?

更新の頻度は自治体によって違います。

東京都の場合、3歳・6歳・12歳・18歳での更新が必要です。

またこの年齢に該当しなくても、著しい変化が見られた場合は更新の必要があります。

大阪府の場合は個別に次の更新時期を設定しますが、だいたい5年間隔での更新です。

 

知能検査内容

更新時の知能検査(発達検査)の内容は例として、積み木での模倣や型はめ、折り紙での課題などです。その様子を検査員が確認し、再判定の参考にします。

ただし、18歳以上の場合は知能検査を省略できることもあります。

 

更新を忘れた場合

療育手帳の更新を忘れてしまうと、医療費助成などの支援が受けられなくなってしまう可能性があります。

もしも忘れていたら、速やかに申し出て更新することが必要です。

また、住所が変更になった場合は、各自治体の保健福祉課や福祉事務所などでの変更手続きが必要になります。

 

療育手帳をメリットを活用して生活と心に余裕を

両親と手を繋ぐ少年

知的障害のある方にとって、療育手帳によるメリットは大きいです。

療育手帳の交付を受けることで得られる就労支援や経済面での優遇などを生かせば、心身への負担の少ない暮らしにつながるのではないでしょうか。

また、もっと自立した生活を目指したいのなら、グループホームへの入居もおすすめです。

ペット共生型グループホームの「わおん」・「にゃおん」なら、かわいい犬や猫と一緒に暮らせるので、生活の質(QOL)の向上が期待できます。

元保護犬との散歩、猫のトイレ掃除など、動物の面倒をみるという行為が心理的効果だけでなく、身体的・社会的な面にも良い影響を与えてくれるでしょう。

また、食事や掃除、服薬管理など、あらゆる面でのサポートも受けられます。

動物好きでかつ自立を目指したい障害者の方やそのご家族は、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。