障害福祉事業の要は「物件」にある。
障害福祉事業を始めるには、「物件」を第一に見つけなければならない。お金や人員の部分ももちろん事業を開始するためには必要となるが、まずは物件が決まらないことには始まらない事業なのである。
理由としては、障害福祉事業は、物件があるエリアで、指定権者が決まり、物件のエリアを管轄する行政にヒアリングをしたうえで、指定権者に協議をしに行くからだ。指定権者によって、指定時に提出書類や作成フォーマットが異なり、進め方も異なるため、まずは、物件を決めて指定権者を決定することが障害福祉事業の進め方で重要となる。
また、人員に関しては、現場で勤務をしてもらうため、物件が決まらないことには募集がかけられないし、お金の仕組みについては、またその先の事業開始後の話となる。
今回は、障害福祉事業所の開設に適した物件とはどんな物件なのか、詳しく見ていきたい。
障害福祉事業に適した物件条件
共同生活援助
立地 | ×入所施設や病院の敷地内 〇住宅地は住宅地と同程度に地域住民と交流できる場所。 |
居室 | 1人1室の居室を確保し、居室面積は収納スペースを除き内法面積で7.43㎡以以上。 |
建物 | アパート、マンション、一戸建て等で、賃貸、自己所有どちらでも可 |
住居定員 | 本体住居:原則、2人以上10人以下(既存建物使用の場合は20人以下) サテライト住居:1人 ※日中サービス支援型は20人以下 ※事業所全体の定員は4人以上 |
ユニット定員 | 2人以上10人以下 |
居室以外の設備 | 台所、トイレ、浴室等日常生活を送る上で必要な設備のほか、相互交流スペース(食堂、ダイニング等で可)。共同生活住居の配置、構造及び設備は、利用者の障害特性に応じて工夫されたものであること。 |
生活介護
訓練作業室 | サービス提供に支障のない広さを備えること。 大阪市は利用者一人当たりの面積が3.0㎡。最低定員が20名であることから訓練指導室の最低面積は60㎡が必要。 |
相談室 | プライバシーに配慮できる空間にすること |
多目的室 | 相談室と兼務も可能 |
洗面所・トイレ | トイレ手洗いと洗面所の兼用は不可。アルコール消毒液、ペーパータオル |
事務室 | 鍵付き書庫の設置 |
放課後等デイサービス
指導訓練室 | ・訓練に必要な機械器具等を備えること ・児童1人当たり2.47㎡以上(3㎡以上の行政有) ・最低定員10名:最低24.7㎡以上(30㎡以上の行政有 |
相談室 | プライバシーに配慮できる空間にすること |
洗面所・トイレ | トイレ手洗いと洗面所の兼用は不可。アルコール消毒液、ペーパータオル |
事務室 | 必要な設備及び備品を設置すること 少なくとも管理者及び児童発達支援管理責任者が執務できるスペース及びイス・机、 鍵付き書庫などが必要 |
静養室 | 必須ではない(行政によっては必要) |
就労継続支援業所(A・B)
訓練・作業室 | 訓練又は作業に必要な機械器具を備えていること 広さについては1人当たり3㎡以上(堺市は3.3㎡以上)が指針となっているところが多いが、指定権者により異なるため事前に確認。 |
トイレ | 利用者の特性に応じたもの |
洗面所 | 手指を洗浄する設備を備えること 障害者の使用する設備及び飲用に供する水に衛生上必要な措置を講じること |
相談室 | 苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じること 室内における談話の漏洩を防ぐための間仕切り等を設けること |
多目的室 | 利用者の食事や談話するためのスペース ※利用者の支援に支障がなければ、相談室との兼用可能。 |
構造設備 | 事業所の構造及び設備は、利用者の特性に応じて工夫され、かつ、日照、採光、換気等の利用者の保健衛生に関する事項及び防災について十分考慮されていること |
最低定員 | A型:定員10人以上(多機能型も同様) B型:定員20人以上(多機能型は10人) |
お勧めの物件特徴
- 以前に障害福祉事業が入っていた物件
既に必要な消防設備がついていたり、大掛かりな改装をしなくても使用できたりするため、初期費用がかなり抑えられる。消防設備は、障害福祉事業の内容にもよるが、安い場合でも40万程度するため、既に設置されている物件は、とてもありがたい。 - 原状回復をすれば、多少の工事が許されている
利用スペースを広げるために押入れを小さくしたり、障害特性に合わせて手すりや滑り止めを設置したり、段差を縮めたりする必要が出てくることが多いため。 - 基準値があと少し足りない場合や、事業を開始するにはこんな工事をしてください、という注文が行政から入る場合もあるので、全く工事が許されない物件だと、開設に至れない場合がある。
- 近くに、スーパー、コンビニ等、生活する際に必要なものが購入できる場所がある
- 日中活動先の送迎範囲内
- 隣の建物が戸建てではなく、アパート等の集合住宅
隣家が一戸建てで古くからその土地に住まわれている場合、隣の建物で事業を始めようとすると、反対される事例があった。反対に、アパートやマンション等の集合住宅だと、そこまで地域にこだわりを持っていない人が多いので、上記のような反対が起こりづらい。 - フリーレントがついている
障害福祉事業は、物件を最初に見つけなければ相談が始められないが、その相談にかなりの時間を要する。東京都の例を挙げると、開設予定日から、4か月前には相談を始めるようにと、記載がされている。そうなると、5か月前には、物件が所在する行政へ行政確認を行う必要があるので、5か月以上前から進めたい物件を見つけて確保しておく必要がある。一番確実に確保するには、その5か月前から物件を契約しておくことだが、そうなると、事業開始予定の5か月前から賃料を支払わなければならないこととなる。仮に、20万円の物件を借りたとすると、物件の家賃だけで100万近く、開設までに支払う必要が出てくる。そのため、賃料発生まで少し期間を設けてくれるフリーレントは、障害福祉事業を検討するうえでは、とても魅力的である。
物件の見つけ方
- ネットで物件リサーチ
- 実際に開設をしたいと考えるエリアを回って、地域の不動産を見つける
- 不動産に条件を伝える
上記物件条件、開設を検討している事業の特徴(事業の持続性、安定性、)、フリーレントの交渉(事業特性上開設までに時間がかかる)、等
ここで重要なのは、
- たくさんの不動産と物件をあたること
- 気になるエリアの不動産とは定期的に連絡を取り合うこと
- 物件は自身の目で見て内見し、実寸を図りメモを残しておくこと
- 内見時は、内装、外装、居室の窓、窓から隣家までの距離、近隣の様子や隣接する物件との距離感等、行政確認で必要となり得る部分は、全て写真や動画に収めておくこと
- 早めの決断を下すこと
申し込みだけでも即日対応できるような状態で、会社の決裁権を持つ人物と一緒に内見したり、決裁権を持つ人と即時連絡が取りあえるような状態で物件内見したりすると、スピード感をもって、物件決定につながるだろう。
物件交渉時の注意点
「この物件を、障害福祉事業を行うために借りたい」、と序盤で伝えてしまうと、その時点で、「面倒だな、、」「オーナーとトラブルにならないか心配だ」といった、負の感情が先行して、不動産が取り合ってくれない場合がある。
そのため、最初は、「事業用で使える物件を探している」「(共同生活援助の場合)シェアハウスの様な事業を検討している」等と伝えると、より興味を持って、不動産が対応してくれる可能性が高まる。
また、障害福祉事業が安定していることや、長期スパンでの利用を考えている、運営時間中は基本的に職員が常駐し対応する、等、物件オーナー側の安心材料となるような情報を伝えることも物件契約に繋げるために重要な役割を果たすだろう。
それでも不動産に取り合ってもらえない場合、物件オーナーに直接つないでもらえないか交渉するのも一つの手である。
物件を見つけた後の行政確認(共同生活援助の場合)
障害者総合支援法(市町村障害福祉担当課)
- 各居室の平米数は、満たされているか?(収納を除いて7.43㎡)
- 共有スペースの広さは十分か?
利用者全員+職員1名が一同に会するのに十分な広さであること。行政によっては、1人当たりの共有スペースに求める平米数が定められている場合がある。 - 生活設備は十分に設置されているか?
お風呂・トイレは、5人に対して1つずつあることが望ましいとされている。
消防法(市町村消防署予防課)
- 運営する障害福祉サービスに合わせた消防設備が設置されているか?
消防法にて、該当障害福祉事業所がどの項目に該当するのか、その項目に該当した場合、必要設備(火災報知設備、火災通報装置、スプリンクラー等の消防用設備の設置等)は満たされているのか。
建築基準法(建築安全センター、市町村(同法所管課))
- 建築基準法を満たした建物か?
- 建築基準法で定める、障害福祉事業の要件に当てはまる建物か?
- 違法建築物ではないか?
- 築年数は問題ないか、新耐震の基準を満たしているか?
※検査済証(確認済証、建築台帳記載事項証明書、建築計画概要書等)等で確認
都市計画法(市町村(同法所管課))
- 障害福祉事業所を運営する地域は、都市計画の中で運営許可されているエリアか?
市街化調整区域では、基本的に、新たな事業を始めることが許されていない。
バリアフリー法(市町村(同法所管課))
- バリアフリーを満たしているか?
- 緩和措置や条例はあるか?
基本的に、障害福祉事業所は、バリアフリーであることが求められている。ただし、緩和措置や、条例で別途規定を定めている場合があるので、その点注意して確認を行う。
上記全てを、物件が所在する地域の行政に確認を行い、その際の議事録を作成する。
その後、指定権限を持つ、指定権者に予約を行い、物件情報をもって、障害福祉事業を始めたい点の相談に伺う。
物件取得後の行政確認の流れについては、別途記事を出しているので、その点については、以下を参照したい。