1997年に国家資格に制定された「言語聴覚士」は、医療機関、介護・福祉施設、教育施設など幅広い分野で活躍できるリハビリ専門職です。
この記事では、言語聴覚士の仕事内容や資格の取り方、国家試験の合格率などを詳しく紹介します。
言語聴覚士として就職・転職を目指したい方は、ぜひチェックしてみてください。
言語聴覚士(ST)とは
言語聴覚士(ST)とはどのような職業なのでしょうか。
言語聴覚士の資格詳細や仕事内容、主な職場、年収などを紹介します。
リハビリ分野の国家資格
言語聴覚士は1997年に国家資格となったリハビリ専門職で、「ST(Speech Language Hearing Therapist)」ともよばれています。
脳卒中などの病気や事故による障害、生まれつきの障害によって「話す」「聴く」「食べる」といった日常的な行動が困難な人を対象に、機能回復を目的とした訓練・指導を行います。
対応する障害・仕事内容
言語聴覚士が対応する代表的な障害や仕事内容を紹介します。
言語障害
言語障害は、言葉の理解や声を出すこと、話すことが困難になっている状態のことです。
言語障害には大きく分けて「構音障害」と「失語症」があります。
- 構音障害:唇・舌・声帯などの器官がうまく機能せず、発音や発声に支障が出る障害
- 失語症:大脳の言語中枢に損傷があり、聴く・話す・読む・書くなどの行為が困難になる障害
言語聴覚士は言語障害のある方に対して、どのような支障が出ているか評価し、言語機能の回復・改善を目指すリハビリを実施します。
コミュニケーションの取り方や、障害によって起こっている問題の解決策についても、ご本人や周囲の方に提案します。
音声障害
音声障害は、大きい声や高い声が出せない、出にくい、かすれるなど、声の音質に異常が起こっている状態のことです。
声の出しすぎやタバコの吸い過ぎによる声帯の炎症、咽頭がんや声帯ポリープなどの病気が原因となり、声が出ない・声がかすれるなどの症状が起こります。
ストレスに起因して急に声が出なくなる「心因性音声障害」も、この一種です。
言語聴覚士は音声障害のある方に対して、医学的なボイストレーニングといえる音声治療や、無理に大声を出さないように、といった原因に合わせた「声の衛生指導」などを行います。
摂食嚥下障害
摂食嚥下障害は加齢による筋肉の衰えや病気の後遺症などによって、食べ物を口に運んだり、噛んで飲み込んだりする行為が難しくなっている状態のことです。
栄養もとりにくくなるため健康への影響が大きく、「誤嚥(ごえん)」による肺炎を引き起こす場合もあります。
言語聴覚士は原因に合わせて、検査から原因を推察する評価・筋力負荷訓練・口の動かし方の指導・医師や栄養士など他職種と連携した栄養管理などを行います。
他にも、言語聴覚士は、ことばの発達の遅れがある子どもを対象としたリハビリ、聴覚障害がある方に対する検査や補聴器の訓練などを行うこともあります。
主な職場
言語聴覚士は、医療、介護・福祉・保健、教育などの分野で活躍しています。
それぞれの主な職場を紹介します。
医療の現場
医療の現場では、以下のような職場があります。
- 大学病院
- リハビリテーションの専門病院
- リハビリテーションセンター
- 口腔外科や耳鼻咽喉科
介護・福祉・保健の現場
介護・福祉・保健の現場では、以下のような職場があります。
- 特別養護老人ホーム
- デイサービスセンター
- 訪問リハビリテーション
- 障害者支援施設
- 保健所
教育の現場
教育の現場では、以下のような職場があります。
- 放課後ディサービス
- 小児療育センター
- 発達障害児支援センター
- 特別支援学校
- 保育所・幼稚園
- 小学校・中学校
※教員として働く場合は、教育免許が必要です。
年収はどのくらい?
言語聴覚士の平均年収は350万円~450万円程度、月の平均給与は25~30万円程度といわれています。
言語聴覚士には医療・介護・教育などさまざまな分野の職場があり、働く場所によって年収は異なります。
言語聴覚士の有資格者は、2021年3月時点で約36,000人。
他のリハビリ専門職と比べると有資格者は少ない状態です。
ニーズの高い職業なので、手当・福利厚生が充実していて給料待遇が良い職場を選ぶとよいでしょう。
言語聴覚士になるには?資格の取り方
言語聴覚士になるには、言語聴覚士国家試験を受験して合格する必要があります。
合格後は厚生労働大臣の免許を受けることで、言語聴覚士として働くことができます。
受験資格
言語聴覚士国家試験の受験資格を得るには、必要科目を学べる学校や養成所を卒業する必要があります。
ルートは大きく分けて2つです。
高校卒業からのルート
高校卒業後に言語聴覚士を目指す場合、以下のいずれかのルートで受験資格を取得できます。
- 文部科学大臣指定の大学・短期大学を卒業する(3~4年制)
- 都道府県知事指定の言語聴覚士養成所(専修学校)を卒業する(3~4年制)
一般の4大卒からのルート
一般の4年制大学卒業後に言語聴覚士を目指す場合、以下のいずれかのルートで受験資格を取得できます。
- 言語聴覚士養成課程のある大学・大学院の専攻科を卒業する(2年制)
- 指定の言語聴覚士養成校(専修学校)を卒業する(2年制)
養成校で学ぶ科目
言語聴覚士の養成校では、基礎科目・専門基礎科目・専門科目を学びます。
それぞれの科目には、以下のようなものがあります。
- 基礎科目
生涯発達心理学、臨床心理学、社会福祉学、人文学、など - 専門基礎科目
解剖学、リハビリテーション学、音声学、発育発達学、臨床医学など - 専門科目
失語・高次脳機能障害学、嚥下障害学、言語発達障害学、聴覚検査法など
基礎的なことから、専門的・実践的な知識や技術までを講義・演習で学んでいきます。
また、カリキュラムには、医療機関やリハビリ施設などで行う臨床実習も含まれます。
第23回言語聴覚士国家試験概要
言語聴覚士国家試験は毎年2月に実施されています。
令和3年2月に実施された「第23回言語聴覚士国家試験」の試験日や試験科目、受験料などは以下のとおりです。
試験日・試験地・合格発表
- 試験日
令和3年2月20日(土) - 試験地
北海道・東京都・愛知県・大阪府・広島県・福岡県 - 合格発表日
令和3年3月26日(金)午後2時 - 合格者発表方法
厚生労働省ホームページの資格・試験情報ページと公益財団法人医療研修推進財団ホームページに受験地・受験番号を掲載
試験科目
- 基礎医学
- 臨床医学
- 臨床歯科医学
- 音声・言語・聴覚医学
- 心理学
- 音声・言語学
- 社会福祉・教育
- 言語聴覚障害学総論
- 失語・高次脳機能障害学
- 言語発達障害学
- 発声発語・嚥下障害学および聴覚障害学
受験料
34,000円
※公益財団法人医療研修推進財団が指定する銀行または郵便口座に振り込み
受験資格や必要書類など詳しくはこちら↓
厚生労働省「言語聴覚士国家試験の施行」
言語聴覚士国家試験の合格率
言語聴覚士国家試験の合格率や難易度について紹介します。
第22回(2020年)と第23回(2021年)の合格率・合格点比較
厚生労働省の発表によると、「第22回言語聴覚士国家試験」と「第23回言語聴覚士国家試験」の合格率は以下の通りです。
【第22回言語聴覚士国家試験(令和2年2月15日実施)】
- 受験者数:2,486名
- 合格者数:1,626名
- 合格率:65.4%
出典:厚生労働省「第22回言語聴覚士国家試験の合格発表について」https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2020/siken21/about.html
【第23回言語聴覚士国家試験(令和3年2月20日実施)】
- 受験者数:2,546名
- 合格者数:1,766名
- 合格率:69.4%
出典:厚生労働省「第23回言語聴覚士国家試験の合格発表について」https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2021/siken21/about.html
第22回に比べて23回の方が受験者数が少々増え、合格率も上がっています。
合格率の推移
1999年に行われた第1回の国家試験から2021年の第23回までの合格率は以下の通りです。
受験者は近年では2500人ほど、ここ3年の合格率は70%弱です。
ちなみに、2021年1月に行われた介護福祉士国家試験の受験者は84,483人、合格率は71%です。
合格率こそ同じくらいですが、受験者数の桁が違います。
介護福祉士の場合、指定の学校に通わなくても、実務経験3年以上と実務者研修修了という条件をクリアしていれば受験資格を得られます。
学歴関係なく挑戦しやすい、社会人になってからのキャリアチェンジがしやすいという点が大きく関係しているのでしょう。
また、言語聴覚士の知名度がまだ低いことや、学ぶ分野の範囲が広いという点も受験者が少ない要因だと思われます。
大学新卒と大学別の合格率
「第23回言語聴覚士国家試験」 の大学新卒の合格率は86.5%です。
大学別の合格率は下記サイトから確認できます。
2021年言語聴覚士国家試験結果/旺文社教育情報センター
全体の合格率が69.4%ということを考えると、大学でじっくり学んだ方が合格率が上がることがわかります。
実際に、社会人になってから、専修学校に2年通って知識や技術を身につけるのはきついという意見がネットの情報を見ても多数あります。
現在高校生で、言語聴覚士の仕事に興味があるなら、年数をかけてじっくり学べる指定大学を選択するのが良いでしょう。
言語聴覚士の難易度
「第23回言語聴覚士国家試験」の試験問題数は200問で200点満点、合格ラインは120点以上でした。
大学新卒受験者の合格率は80%を超えています。
しっかり学んで試験対策を行えば、決して難易度は高くないといえるでしょう。
過去問の解答と解説を確認する
言語聴覚士国家試験の過去問をチェックしたい方に、おすすめの商品を紹介します。
2021年版言語聴覚士国家試験過去問題3年間の解答と解説
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4434275917/
- 著者:言語聴覚士国家試験対策委員会(編集)
- 出版社: 大揚社
- 発売日:2020/07/07
言語聴覚士国家試験を受験する方に向けた過去問集です。
過去3年間の問題の解答と解説を確認できます。
アプリで学ぶ
言語聴覚士国家試験対策アプリ「グッピー」は、過去問4年分を「サーキット・ラーニング方式」で解き、解答・解説も確認できます。友達とランキングで競えるなどいろいろな機能を無料で利用できるのも魅力です。
言語聴覚士の求人情報も掲載されていて、応募したりスカウトを受けたりすることが可能です。
iPhone・Androidどちらでも利用できます。
言語聴覚士の資格を活かして「サービス管理責任者」を目指す!
言語聴覚士の資格をお持ちで、さらに仕事の幅を広げたいという方は、「サービス管理責任者」の資格取得を目指してみませんか?
サービス管理責任者とは
サービス管理責任者(サビ管)は、障害福祉サービスを提供する事業所の中心的な役割を果たします。メインとなる仕事は、利用者やその家族と面談して聞き取った内容をもとに、個別支援計画を作成することです。
この計画に沿って、スタッフと利用者を迎える準備をし、実際に支援をはじめたら、計画の実施状況を確認したり、支援内容の修正が必要かどうかを検討したりします。
医療機関など他関係機関と連携を取って、より良いサービスを提供できるようにするのも、サビ管の仕事です。
障害福祉サービス関連の事業所のほとんどがサビ管の配置を必須としているため、資格を持っていると、転職の際にも活かせるでしょう。
言語聴覚士の資格で実務経験が短縮化する
言語聴覚士などの指定の国家資格を持っていると、サービス管理責任者の資格を取得するために必要な実務経験を短縮化できる場合があります。
実務経験は相談支援業務と直接支援業務に従事した期間になりますが、国家資格での従事期間がそれらの期間と同時期の場合、3年以上(従事日数540日以上)あれば、必要な研修を受講・修了することでサビ管の資格を取得できます。
たとえば、直接支援業務のみの場合は8年以上の実務経験がないと研修を受講できないので、かなり優遇されるといってよいでしょう。
障害者グループホーム「わおん」もサビ管募集中!
障害福祉サービスの中には、共同生活援助があり、それを提供するのが障害者グループホームです。
障害者グループホームとは、障害のある方が地域にある住居で共同生活を送りながら、自立を目指す施設です。
「わおん」は全国に展開している障害者グループホームで、保護犬や保護猫と暮らせるというのが大きな特徴です。
入居者は軽度の精神障害・知的障害のある方が主で、多くの人は昼間は仕事に出ています。
障害者グループホームもサビ管の配置が必須となっており、全国各地に施設を増やしているわおんでもサビ管を募集しています。
入居者とのコミュニケーションも重要となるので、同じくコミュニケーションありきの言語聴覚士としての経験を活かせるでしょう。
サビ管の資格を手に入れて、新たな分野で活躍しませんか?