2冊目のレビューは「ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書) Kindle版/宮口幸治 (著)」です。
作者の宮口幸治氏は、元精神科医。少年院で法務技官として勤務していた方です。
https://www.amazon.co.jp/ケーキの切れない非行少年たち
本書では主に発達障害や知的障害をもち非行に走った少年たちが集められる、三重にある矯正施設(医療少年院)での経験をもとに書かれています。
‘’医療少年院は、特に手がかかると言われている発達障害・知的障害をもった非行少年が収容される、いわば少年院特別支援学校といった位置づけです‘’
こういった施設は全国で3か所ありますが、非行のタイプは窃盗・恐喝、暴行・傷害、強制わいせつ、放火、殺人などの重大犯罪まで多岐にわたります。
宮口氏はあるとき、一人の少年にRey複雑の模写の課題をやらせてみたところ、衝撃を受けます。
図「ケーキの切れない非行少年たち」187ページ
知的障害や発達障害をもつ少年たちにとり「世界が歪んで見えている可能性がある」ことに気付きます。
観る力が弱いとおそらく聞く力もかなり弱く、大人の言っていることがほとんど聞き取れないか、歪んで聞こえている可能性が高いのです。
非行少年たちは自分が犯した凶悪犯罪と向き合い、被害者のことを考内省しなければならないにも関わらず、そもそもその力がない。
更生以前の問題であり、本来だったら、幼い頃より病院を受診し福祉ともつながるべき子供たちでした(だけど、家庭環境が悪く、医療や福祉とつながっていた子供はほぼ皆無に近い)。
見る力、聞く力が弱ければ、勉強も苦手でしょうし、周りの状況も読めずいじめにも遭いやすい。それが非行の原因の一つになってるケースもあります。
福祉の世界では「軽度が重度」とよく言われますが、こういった少年たちは、軽度知的障害や境界知能(明らかな知的障害ではないが状況によって支援が必要)であり、小学校などでは「厄介な子」として扱われるだけで障害にはなかなか気づいてもらえません。
犯罪によって被害者を産み出し、逮捕され、少年鑑別所に入り、初めて障害があることに気付かされる。
悲しい話です。
タイトルの「ケーキの切れない非行少年たち」は認知の歪みにより、ケーキを等分に切る課題をクリアできなかった少年たちがほとんどだったことからつけられました。
後半は5分からできる「コグトレ」という認知機能トレーニングの具体的なやり方が書いてあります。
私は千葉県で児童養護関連施設の運営もしていますが、多くの子どもたちは適切な養育者に恵まれなかった子供たちです。
認知機能トレーニングはそういった施設でも、グループホーム内でも、取り入れていく価値があると思っています。