【Review(書評)3】「誰もボクを見ていない:なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか」

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書評3回目 「誰もボクを見ていない:なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか」

 

連日、蒸し暑い日が続きますが、熱中症対策は充分にしてくださいね!

 

さて、今回はレビュー3回目 「誰もボクを見ていない:なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか」 (日本語) Kindle版 山寺香  (著)  – 2017/6/28 です。

 

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この本は、2014年3月29日、埼玉県川口市のアパートの一室で、70代の老夫婦が刃物で刺され遺体が発見され、1か月後、警察が孫の少年(当時17歳)を窃盗容疑で逮捕(後に強盗殺人容疑などで再逮捕)したという、痛ましい事件のルポだ。

 

筆者の山寺香氏は当時、毎日新聞さいたま支局に赴任していた記者だ。

 

少年が、殺害の動機が「お金目当てだった」と供述したことから、素行の悪い少年が遊ぶ金欲しさに祖父母を殺した事件とみなされ、世間から忘れられていった。しかし、同年12月から始まった裁判員裁判で明らかになった少年の生い立ちが常軌を逸した過酷なものだったため、再度注目を浴びることとなる。

 

筆者が驚愕したのは、まず、少年が小学5年から義務教育を受けていなかったにも関わらず、行政も周囲の大人たちも少年を助け出すにいたらなかったことだ。

 

さらに少年は住民票を残したまま転居を繰り返し、行政が居場所を把握できない「居所不明児童」だったのだ。

 

厚生労働省の『平成29年度「居住実態が把握できない児童」に関する調査結果【概要】』

によると

‘’平成30年6月1日時点で居住実態が把握できない児童は28人。

(※) 平成29年6月1日時点で市町村が所在等の確認が必要と判断した調査対象児童は全国で1,183人。

このうち平成30年5月31日までに所在等が確認できた児童は1,155人(97.6%)。

○ 平成28年度調査から引き続き居住実態が把握できない児童は、28人のうち8人‘’

となっている。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000349889.pdf

 

今でも28人の子どもの居場所が把握できない。日本には約1万人の無戸籍者がいると言われている。

 

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無戸籍児(出生届すら出されていない子どもたち)と合わせると、28人という数字は氷山の一角であると言わざるを得ない。

 

タイトル通り、周囲の大人や行政からも知られずに暮らす、「誰もボクを見ていない」という状態の子どもたちは私たちの身近にいてもおかしくない存在なのだ。

この少年は幼少期から、母からの虐待を受けていた。虐待ときくと、身体的な暴力を想像するが、少年が受けていたのは、主に精神的な虐待。少年は母親のために(共依存関係になっていた)学校にも通わず、妹の世話や金銭の調達(祖父母や親せきへのお金の無心)を担っていた。

 

例えば、母は少年に「お前は父親の前に付き合っていた男に似ている」「車の中でヤッたときにたまたまできたんだよ」と繰り返し言い、少年は自分が望まれて産まれてきた子ではないということで、自尊心が揺らぎ、自分の顔が大嫌いになる。

こういった精神的な虐待とともに、学校へも通わせない、転居を繰り返してラブホテルでその日暮らしをしていた少年一家。

 

そういった環境で育った少年が、母が計画した祖父母殺害計画を、ためらわずに実行してしまったことを責めることはできるだろうか。

 

少年が短期間ではあるものの、フリースクールやラブホテルの従業員など、他の大人とのつながりを持つ機会は合った。誰もが少年が学校に通っているのか、どんな家庭環境なのかと疑問を持ちはするものの、具体的に救おうとする行動は起こさなかった。

 

そして、そういったわずかな社会との接点も、母親の転居により、断たれていってしまう。

大人の誰かが、積極的に少年の家庭に介入していれば、少年はこのような事件は起こさなかっただろう。

 

小学5年生から教育を受けていないかったが、少年の論理的思考力は人並み以上にあることに驚く。虐待の影響で、感情的思考の欠落している部分はあるのだが、人一倍学習意欲が高く、頭が良い印象を受ける。

 

このような少年が親により、学童期の貴重な時間、そして未来を奪われ、このような事件を起こしてしまったことがとても悲しい。

 

少年院の入院者には、この少年のように虐待を受け続けてきた少年少女が少なくない。

 

少年は逮捕されたことにより、母と物理的に離れることができ、初めて貧困と虐待の終わりなきループから外れることができた。本来そうした少年は福祉により救われるべき子供だ。

 

しかし、現在の社会のセーフティーネットは機能しておらず、少年のように福祉から零れ落ちてしまう子どもがたくさんいるのが現状だ。福祉人として悲しく思うとともに、弊社でできる取り組みは何だろうかと考えさせられた。

 

中学生の時にサッカーをするためにブラジルに8ヶ月ほど留学していた私は、貧困だけど元気に暮らすブラジルの人々と、自殺者が多い日本の貧困の差は何なのだろうと思った。

 

日本の貧困を解決することが福祉に携わるきっかにもなっている。

 

私にとり子供の貧困の解消はライフワークとして、取り組んでいきたいことの1つだ。引き続き、子どもの貧困や虐待問題は追い続けて行こうと思う。