【福祉書評12】「脳が壊れた」鈴木大介著~41歳で脳梗塞になった作者の目線で語る 高次機能障害という「見えない障害」の世界~

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福祉書評の更新をだいぶ怠けててすいません😅

 

本日は、「脳が壊れた」新潮新書 鈴木大介著

 

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のご紹介をする。

 

作者の鈴木大介氏は、ルポライターとして活躍していた41歳の時に、脳梗塞を発症。

 

後遺症は軽かったものの、いくつかの高次機能障害が残ってしまった。

 

高次機能障害は、身体の麻痺などのように一見して分かる障害ではなく、「見えづらい障害」「見えない障害」等と言われ、本人・周囲の家族・医師ですらなかなかその実態が分からない障害だ。

 

ただ行動が奇妙に見えてしまったり、性格が変わったと思われたりすることも多いという。

 

福祉の世界では「軽度が重度」と言われるが、鈴木大介氏の高次機能障害も他のグレーゾーン、ボーダーラインの障害を持つ方同様、支援が得にくく、周囲の理解が得づらい。

 

氏はかなり長期間に渡り、軽い注意欠陥障害やパニック、「話しづらさ」という障害が残ってしまった。

 

不自由になった鈴木氏の脳裏には、かつて自身が取材してきた、パニック障害、適応障害、発達障害、認知症や薬物依存症などを抱えた「困窮者たち」の顔が浮かんだという。

 

そこで鈴木氏は、当事者のつらさの言語化を試みた。

 

「脳が壊れた」(機能を阻害された)状態であれば、出てくる症状や感覚には多くの共通性や類似性があるからだ。

 

非常に深刻な話なのだが、鈴木氏は非常にコミカルに表現していて、読み進めやすい。

 

例えば「半側空間無視(鈴木氏の場合は、自分の左側の世界を「見えていても無視」する、左側への注意力を持続するのが難しくなってしまう)」により、「相手と目を合わせられず右上方を凝視してしまう」症状を、「よそ見会話病」「右前方無差別メンチ病(関西弁で、睨みつけること。 関東では「ガンを飛ばす」等というが)」と表現している。

 

または鈴木氏の大好きな「義母が左側に全裸でいる」ような感覚だと書いている。

 

思わず笑ってしまう。

 

暗くなりがちな障害の話を、鈴木氏は見事に読みやすく、非常に分かりやすく表現している。

 

なるほど、挙動不審に見えるあの人は、もしかして鈴木氏の書くように「メンチ病」なのかもしれないと親しみすら感じてしまう。

 

リハビリ医療に光を見いだした鈴木氏は、その体験を「発達の再体験・追体験」と表現し、虐待やネグレクトから発達障害同様の症状を呈する子どもたちの発達の支援者になる可能性を秘めているのは、リハビリ療法士たちではないかと推察している。

 

私は環境要因により生じた症状であれば、同じように外的要因(疾患)により生じた高次機能障害に対するリハビリが、そういった子どもたちにも効果的だという説には、大きな可能性を感じた。

 

鈴木氏の妻は先天的な激しい注意欠陥障害であるが、‘’「ようやくあたしの気持ちが分かったか」’‘と言った。

 

そこで、鈴木氏は生きづらさを抱えてきた妻の気持ちや状態が理解できる。

 

そして、妻が言った「あんたの場合は時間薬で治るんだから、今を楽しめば?結構、楽しくない?」を’実践し、注意欠陥で集中すべきでないところに集中してしまい、物事に優先順位をつけられない状態を、楽しんでしまうのだ。

 

全体的に明るいトーンで書かれてはいるが、「見えない障害」に対する当事者が自己理解し、周囲が受け入れていくことはその人生を大きく左右する問題だ。発達障害をはじめとする、「目に見えない障害」当事者の感覚がここまで言語化されている本は他にない。

 

障害当事者の方やそのご家族はもちろんのこと、介護・福祉関係者にはお勧めの一冊だ。