【福祉書評13】「脳コワさん支援ガイド」~高次脳機能障害当事者が発達障害、認知症、うつ、パニック障害などの「脳が壊れた人たち」の状態を代弁。当事者・対人援助職必読!~

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(引用: https://amzn.to/3fxVbdJ

 

 

本日は、福祉書評12(https://anispi.co.jp/president_blog/post-3644/)の「脳が壊れた」の著者 鈴木大介氏の3冊目の闘病記、『「脳コワさん」支援ガイド(https://amzn.to/3fxVbdJ)』をご紹介する。

 

 

著者の鈴木大介氏は、前回も書いたが、ルポライターとして活躍していた41歳の時に、脳梗塞を発症。後遺症は軽かったものの、いくつかの高次脳機能障害が残ってしまった。

 

 

高次脳機能障害は、身体の麻痺などのように一見して分かる障害ではなく、「見えづらい障害」「見えない障害」等と言われ、本人・周囲の家族・医師ですらなかなかその実態が分からない障害だ。

 

 

そして、3冊目となる本作は、自分のように「脳が壊れた」状態の「脳コワさん」への支援ガイドだ。

 

 

「脳コワさん」とは、本書では、「脳コワさん」を「病名や受傷経緯などが異なっていても、脳に何らかのトラブルを抱えた当事者」と定義している。

 

 

鈴木氏のように、高次脳機能障害・うつ・双極性障害・統合失調症などの精神疾患や認知症、発達障害者なども「脳に何らかのトラブルを抱えた当事者」として共通点があるとし、その症状やしてほしい支援や声かけ、氏がどうその症状を克服するために環境調整していったが、イラスト入りで非常に分かりやすく書かれている。

 

 

1冊目の闘病記を出版後、氏のもとには、「脳コワさん仲間」から「自分のことが書いてある」「自分の苦しみが書かれている」といった感想が多く寄せられたという。

 

 

それにより鈴木氏は「病名や受傷経緯などが異なっていても、脳に何らかのトラブルを抱えた当事者」であれば困りごとは共通しているという確信へとつながった。

 

 

本書は「脳コワさん」から支援者への歩み寄りの第一歩として書かれている。

 

相手の話が聞き取れない要因として

 

  • 思考速度の低下
  • ワーキングメモリの低さ
  • 注意欠陥
  • 光や音、においなどの感覚過敏
  • 日本語が理解できても「意味」が頭に入ってこない

 

ことが挙げられているが、まさに発達障害も同様の理由で、聞き取れないのだろうと思う。

 

その結果、どのように日本語が聞こえるのかの例示が非常に分かりやすい。

 

「こんにちは。僕の名前は鈴木大介です。千葉県に住んでいる四〇代の男性です」

 

 

これは日本語で、意味の通る単純な一文です。けれども、これが次のようだったらどうでしょう。

 

 

「です僕のこんにちは名前。でいる四〇代の鈴木大介に住んです男性です千葉県す」

 

 

このように聞こえたら、会話の続行は不可能だろう。

 

 

この一節を読むだけで、当事者のつらさ、なぜ会話中にパニックになるのかが理解できる。

 

かなりショッキングだった。

 

 

(引用: https://amzn.to/3fxVbdJ

 

 

そうやって聞き取れないことを、自転車の運転に例え、表現しているのが上記の図だ。

 

 

また本書では、当事者を心理的破局(パニック)の追い込まない援助職の配慮についても書かれている。

 

 

・ゆっくり分かりやすく話す

・当事者の言葉が出るまで待つ

・当事者の言葉を遮らない。出てこない言葉を自分の言葉で補わない。

・苦しい、冬自慰だという訴えをそのまま首肯する。

・「当事者を追いつめるコミュニケーションを避ける」などだ。

 

私自身、これを読んで反省点が多かった。

 

 

つい、当事者の方を相手に、良かれと思い出てこない言葉を自分が補ってしまうときがある。

 

鈴木氏は「脳コワさん」への援助にあたり、自閉症へのケアを参考にすることを勧めている。

 

自閉症への合理的配慮が、全てではないが、高次脳機能障害・うつ・双極性障害・統合失調症などの精神疾患や認知症の方にも役立つというのは大きな発見だった。

 

福祉書評12(https://anispi.co.jp/president_blog/post-3644/)の「脳が壊れた」でも書いたことだが、鈴木氏の文章は、深刻な内容ながら、随所にコミカルな表現があり、非常に読みやすい。

 

当事者・対人援助職の垣根を超え、チームプレイとして障害や疾患と向き合っていくのに、必ず役立つ一冊だ。