今回は「ケーキの切れない非行少年たち」1巻 バンチコミックス Kindle版
宮口幸治 (著), 鈴木マサカズ (著), 鈴木 マサカズ (イラスト)をご紹介する。
本書は宮口幸治 (著)の「ケーキの切れない非行少年たち(https://amzn.to/3qK82OX)」が原作となったコミックだ。
以前、福祉書評でも原作は取り上げているが
https://anispi.co.jp/president_blog/post-3048/
本書でも知的障害や発達障害をもつ少年たち、またはIQ70から84の境界知能と言われる少年少女たちの生きづらさを描いている。
1965年から1974年まで、IQ70から84の範囲にいる人たちは「ボーダーラインの精神遅滞」と言われていた。
IQ70未満は知的障害にあたるが、全体の2%だ。
昔は精神遅滞といわれていた境界知能といわれる人たちは、全体の14%である。
35人のクラスだとその中の5人は境界知能なのだ。
IQの平均は100である。
境界知能の子どもたちは、その理解力や認知の歪みなどにより、生きづらさを抱え、苦しみながら大人になるケースが多い。
そして、その困難から、触法につながるケースもある。
舞台は「第Ⅰ種」の「第一種支援教育課程Ⅰ」(知的障害またやその疑いのある者及びこれに準じた者で処遇上の配慮を要する非行少年を収容する)要鹿乃原(いるかのはら)少年院だ。
主人公の少年院の医務室に勤務する精神科医 六麦克彦(ろくむぎかつひこ)である。
そこで六麦はそういった少年たちが、ケーキの図を等分できないということに気付く。
(引用:「ケーキの切れない非行少年たち」1巻 バンチコミックス Kindle版 21/204頁)
本書、1話~4話に出てくる田町雪人(20歳)は、交際相手に借金の返済を迫られ「警察に行く!」「嘘つき!」と言われたことで、彼女を石で殴りつけ殺害してしまう。
テレビで放送された雪人の顔を見た六麦は、4年前に16歳だった頃に入院してきた少年だと気付く。
雪人もまた「ケーキが切れない非行少年」だった。
軽度の知的障害があった雪人は、父親のDVが原因で離婚した母に育てられるが、6歳ころから万引きをはじめた。
無免許運転や万引き、窃盗などを繰り返し、要鹿乃原(いるかのはら)少年院に入院した。
11か月の入院生活で、模範生となった雪人だった。
「僕はもう二度と誰も悲しませたくありません」
と言い、退院した雪人だった。
が、4年後に殺人事件を起こしてしまう。
雪人にとり、社会はそんなに甘いものではなかった。
非行少年に理解がある会社に採用されたが、言われたことを覚えられない彼は徐々に居場所を失っていく。
障害があり、社会から理解されない雪人にとり、少年院よりも社会の方が生きづらかったのではないかと、六麦は感じる。
触法障害者問題は非常に重いテーマだし、活字になると、敬遠してしまう人も多いだろう。
コミックになったことで、手に取ってみようと思う方も多いと思う。漫画好きの方には、この機会にぜひ手に取ってもらいたい。
目に見えて分かる重度の障害よりも、残酷な側面がある軽度・境界域の少年たちは、時に重大な犯罪を引き起こすことがある。
しかし、彼ら彼女らも福祉の適切な関わりと、周囲の理解さえあれば事件など起こさなかったというケースは多々あるだろう。
35人のクラスだとその中の5人は境界知能だと言われる。
そういった子どもたちを排除せずにどうサポートしていくかで、少年たちの未来は全く違ったものになる。そういった子どもたちの生きづらさをキャッチできる制度や社会作りが急がれる。
今後もライフワークとして、触法障害者問題は定期的に提起していきたい。
藤田英明