自立を目指す精神障害者の方に適したサービスのひとつが精神障害者グループホームです。
グループホームというと高齢者向けというイメージがある方は多いかもしれませんが、精神障害者向けのグループホームは若い世代も多く利用します。
この記事では精神障害者グループホームの入居条件や家賃、障害者手帳の取得法など入居に必要な情報をまとめてみました。
精神障害者グループホームとは
精神障害者グループホームとは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。その定義や入居条件、対象となる精神疾患についてご紹介します。
グループホームの目的
グループホームとは、障害のある方が必要な支援を受けながら共同生活を送ることができる地域の中にある住居のことで、「共同生活援助」の通称でもあります。
「共同生活援助」とは自立支援給付と地域生活支援事業で成り立つ「障害者総合支援法」で定められた障害福祉サービスのひとつで、入浴・食事などの介助や生活相談といった、日常生活に必要な支援を提供することをいいます。グループホームのスタッフは、サービス管理責任者や世話人、生活支援員などです。
共同生活援助は自立支援給付の訓練等給付に当たります。(地域生活支援事業の例は福祉ホーム)
昼はグループホームから勤め先へ通勤したり、一般企業への就職を目指して知識や技術を身につけるための障害福祉サービス「就労移行支援」に通ったりします。
さらに、社会交流の場を提供する「地域活動支援センター」の活動にも参加すれば、公私での自立を目指すことができます。
入居条件
グループホームには障害者を対象とした「共同生活援助」と、認知症を患っている方が対象の「認知症対応型共同生活介護」があります。
精神障害者が該当するのは前者の「共同生活援助」で、統合失調症などの精神障害や知的障害のある方が数多く利用しています。
自立を目指す施設のため、障害者支援サービスを受けることで地域で支障なく生活できることが入居条件となります。入居にあたっては障害者手帳を持っていることや障害支援区分に認定されていることも必要です。
主な精神疾患
主な精神疾患と特徴は以下になります。
- 統合失調症
発症の原因は解明されていませんが、100人に1人ほどの割合で発症するといわれる統合失調症は決して珍しい病気ではありません。特徴的な症状には幻覚や妄想、意欲の低下、疲れやすさ、言いたいことがわからなくなるなどがあります。
主な治療法は薬物療法で、社会と接点を持つことも治療に役立ちます。
その一方でストレスや環境変化への耐性は低いため、周囲の理解と配慮が必要です。
- 気分障害(うつ病など)
気分の波が現れるのが気分障害で、うつ状態のみ認められる場合はうつ病、うつ状態と躁状態が交互に現れる場合は躁うつ病(双極性障害)といいます。
うつ状態に陥ると意欲が減退し、自己嫌悪に囚われ、自殺を考えるようになることもあります。躁状態になると今度は気持ちが著しく高揚し、貯金を使い果たしたり、寝る間を惜しんで働いたりといった極端な行動を取りやすくなります。
主な治療は薬物療法で、うつ状態の時は無理をせず、休養を取ることが大切です。また躁状態の時は周囲の人間が金銭管理や健康管理を行う必要があります。
- 依存症(アルコール、ギャンブルなど)
アルコールやギャンブルに過剰に依存してしまうのも精神疾患のひとつです。本人だけでなく家族も病気と認識していないことが多く、依存を非難されてよけいに依存を悪化させてしまうという悪循環に陥りやすいため、家族同伴で専門家に相談する必要があります。
再発率が高いので、気長に治療に取り組むことが大切です。
- てんかん
てんかんは脳の一部が過剰に興奮することで発作が起きるもので、誰にでも発症する可能性があります。症状はさまざまで、痙攣を伴ったり、意識を失ったりすることもあります。
発作が起きない限り通常の生活を送ることができるので、適切な内服を継続して発作をコントロールします。
また、発作は突然起きるため、周囲が事情を把握しておき、発作が起きた際は安全を確保して、ただちに専門家に相談することが大切です。
- 高次脳機能障害
高次脳機能障害は、アクシデントや病気などで脳が何らかのダメージを受けたことにより、認知や行動に障害が生じることをいいます。
- 物覚えが悪くなったり何度も同じことを聞いたりする記憶障害
- 集中することが困難になる注意障害
- 効率よく物事を実行できなくなる遂行機能障害
- 暴力的な言動が目立つようになる社会的行動障害
といった症状があり、本人がこれらの症状に気づかない病識欠如が起こりやすいのも特徴です。失語症や片麻痺が現れることもあります。
いずれも脳の障害との関連が見えにくく誤解を招きやすいため、周囲に理解を求め、適切な対処をする必要があります。
知的障害の特徴
知的障害とは発達期に発症する発達障害のひとつです。
- 知能検査によって確認可能な知的機能の欠陥がある
- 適応機能が明らかに欠落している
- 18歳くらいまでの発達期に起こる
と定義づけられており、『精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)』では「知的能力障害(知的発達症)」との表記もあります。
適応機能とは、対人関係やお金の管理、食事の準備といった社会生活を営む上で必要な要求を適切に果たす機能のことです。症状は知的機能と適応機能の両面から判断され、重症度ごとに軽度・中等度・重度・最重度と分類されます。男女比はわずかながら男性が多く、軽度で1.6:1、重度で1.2:1とされています。
出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
グループホームによって対象者は異なる
グループホームによって、入居対象者となる障害の種類や重症度には違いがあります。例えば、重度心身障害者であれば日中活動サービス支援型グループホームへの入居のみが可能だったり、知的障害者のみが入居可能な施設があったりと、グループホームによって対象者は異なります。そのため、事前に確認することが大切です。
ケアマネージャーや市区町村の担当者とも相談し、入居可能なホームを探しましょう。
入居期限に制限がある場合もある
精神障害者グループホームには入居期限に制限がある場合もあります。
入居期間の制限のないものを「滞在型」、制限のあるものを「通過型」といい、「通過型」は1人暮らしを目指す人のための施設で、基本3年間の利用期限が設けられています。
入居の際は障害者手帳が必要
グループホームに入居するためには障害者手帳が必要です。
障害者手帳には「身体障害者手帳」「精神障害者福祉保健手帳」「療育手帳」の3種類があります。精神障害者グループホームの場合、精神障害者福祉保健手帳か療育手帳のいずれかが必要です。
ここでは障害者手帳について詳しく見ていきましょう。
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、症状によって1~3級に分かれており、その判定は精神疾患の有無・機能障害の状態・能力障害の状態・精神障害の程度を基準とし、順を追って行われます。
- 精神障害によって日常生活を送ることが不可能と見なされる場合は1級
- 精神障害で日常生活が著しく制限される場合は2級
- 精神障害が原因で日常生活や社会生活に制限を加える必要がある場合は3級
となります。
出典:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4615&dataType=1&pageNo=1
申請に必要なもの
精神障害者保健福祉手帳は精神疾患の初診日から6ヶ月以上経過していることが交付条件となります。
期間に問題がなければ、申請書など必要書類をそろえて、住んでいる市区町村の担当窓口に提出します。
申請書は担当窓口で配布している場合が多いので、まずはケースワーカーや窓口に確認してみましょう。ホームページからダウンロードできる場合もあります。
必要書類は各自治体によって異なりますが、申請書とともに診断書が基本的に必要です。申請日から3ヶ月以内に作成された診断書のみ有効などと期限が切られている場合もあるので、診断書を取る前に確認した方がよいでしょう。障害年金証書の写しで代用できる自治体もあるようです。
手帳に貼付する顔写真が必要になることもあり、たいていサイズが決まっているため、こちらも確認してから用意しましょう。
特に注意したいのが代理人が申請する場合です。委任状が必要だったり、持参時に代理人の身分証を求められたりする場合もあるため、あわせて確認しましょう。
取得の流れ
取得の流れをまとめると以下のようになります。
初診日
↓
※この期間は申請できません
↓
6ヶ月
↓
※申請可能
↓
住んでいる市区町村の担当窓口で申請書をもらい、必要書類を確認する
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必要なものをそろえる
↓
※医師の診断書が必要な場合、必ず期限を確認しましょう
診断書は申請日から3ヶ月以内の作成日のものと期限が決められている場合があります
↓
書類がそろったら窓口に提出
↓
※判定には意外と時間がかかります
1ヶ月以上かかるところがほとんどで、等級判定に専門的な審査が入ると3~4ヶ月待つこともあります
ホームへの入居には手帳が必要なので早期の入居を考えているなら、早めに申請しましょう
↓
「障害者手帳」交付
※表紙にはプライベートに配慮し「障害者手帳」とのみ記載されています
メリット
精神障害者保健福祉手帳の交付を受けると、グループホーム入居以外にもさまざまなメリットがあります。
障害が原因でなかなか仕事が見つからない場合、手帳が交付されることで障害者雇用枠にも応募できるようになります。就業のチャンスが増えるだけでなく、障害者枠で雇用されると、障害に配慮した環境で仕事ができるため、治療と両立しやすく、無理なく働くことができます。
また、等級によっては所得税や住民税の軽減や、自動車税の減免なども受けられます。自分が住んでいる自治体の特例内容を調べてみるといいでしょう。
税金に限らず、交通機関や携帯電話会社など、障害者向けの割引サービスを提供しているところは少なくないため、経済的負担の軽減が見込めます。
デメリット
精神障害者保健福祉手帳のデメリットとしては、精神的な抵抗感が考えられます。
自力でやっていきたいという思いが強い場合、手帳を持つこと自体が精神的な負担となるため、本人が納得がいかないうちは無理に交付を受ける必要はないでしょう。
障害年金など手帳がなくても利用できるサービスはいろいろあります。
気持ち的に負担を感じず利用できるものを活用していきましょう。
療育手帳
精神的な面で障害がある場合に交付される手帳には、療育手帳もあります。自治体ごとに名称は異なり、東京都の場合は愛の手帳です。
知的障害のある子供が対象
療育手帳は基本的に知的障害のある子供が対象で、等級は重度のA区分と中軽度のB区分に分かれる場合がほとんどです。申請後、検査や面接が行われ、精神障害者福祉保健手帳と同じく、結果が出るまでには1~2ヶ月かかることがあります。
自治体の判断によるところが多い
療育手帳は「療育手帳制度について」というガイドラインはあるものの、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳と異なり、法的に定められたものではありません。そのため全国で統一された基準などはなく、交付するか否かの判断は自治体に委ねられています。
「療育手帳」については別途記事にまとめていますので、そちらもあわせてご覧ください。
生活保護でも入居できる
経済面で余裕がなく、働ける状況でもないという場合、生活保護の申請を考える方もいるのではないでしょうか。
精神障害者グループホームは生活保護を受けていても入居することができます。
生活保護とは
生活保護は資産や能力を費やしても最低限の健康で文化的な生活を維持するのが難しい場合、必要な保護を行って自立を助けることを目的とした制度です。
生活保護の相談や申請は、住んでいる市区町村の福祉事務所が窓口です。福祉事務所がない自治体では町村役場で申請手続きを行っている場合もあります。
生活保護で費用負担が軽くなる
生活保護を受けている場合、グループホームでの費用負担が軽くなります。
入居の際は、障害者手帳と障害福祉サービス受給者証が必要です。
また、生活保護には家賃扶助基準額が設けられており、その範囲内なら家賃全額をまかなうことも可能です。それとは別に月額上限1万円の国の家賃助成制度も利用できるため、住居費に関する利用者側の負担はかなり軽減できます。
とはいえ、やはり生活保護に頼らない自立が望ましく、まずは障害年金でまかなえるよう自己負担額の引き下げなど負担軽減措置が講じられます。
家賃はどれくらい?精神障害者グループホーム紹介
入居を検討する際に気になるのはやはり家賃です。だいたいどのくらいが相場なのでしょうか。全国各地の精神障害者グループホームをいくつかピックアップしてご紹介します。
【東京江戸川区】サクレ江戸川
社会福祉法人SHIPが運営するサクレ江戸川は、基本2年で自立を目指す短期利用の通過型と、時間をかけてゆっくりと自立を目指す滞在型とに分かれており、区内に4棟が点在しています。サクレ江戸川4のみ通過型の男性・女性棟で、あとはすべて男性棟です。
家賃は54,400~71,700円で、入居時に家賃2か月分の敷金が発生します。光熱水費11,000円、日用品費5,000円を月初に預かり、3ヶ月に1回の実費精算となります。
住所:東京都江戸川区
公式ホームページ:https://ship-sakure.com/
【埼玉県日高市】グループホーム大地
平成24年12月に開設された医療法人弘心会 グループホーム大地は、自然に囲まれた静かな環境の中で自分のペースで社会復帰を目指せます。
入居者の1ヶ月の⾃⼰負担分は家賃が44,000円、光熱⽔費が6,600円、これに⽇⽤品費や⾷材料費を合わせて74,250円です。嗜好品など個人で使用するものは別途、各自での購入となります。毎月これに加え、居室で使用した光熱費をあわせた額が請求されます。
住所:埼玉県日高市上鹿山235-32
公式ホームページ:https://www.daichi-grouphome.jp/
【神奈川横浜市】自立支援ホーム ピュアルト
一般社団法人自立支援推進センターが運営する自立支援ホーム ピュアルトには、ソーシャルワーカーや心理相談員が常駐しています。
企業への就労支援だけでなく、在宅ワークの支援も行っており、自分に合った生活スタイルを探すことができます。
家賃は38,000~42,000円、食材費が24,000円で、トータル62,000~66,000円程度です。
住所:神奈川県横浜市西区東久保町5-16-103
公式ホームページ:https://www.tanoshii.house/
【千葉県茂原市】生活クラブ風の村ぴあリビングスペース
生活クラブ風の村は、グループホームだけではなく、障害者就労継続支援B型事業所「生活クラブ風の村ぴあふぁくとり」も運営しています。作業に参加することで工賃が発生するうえに健康的な生活リズムや社会性が身につき、同じ悩みを共有できる仲間とのふれあいもあります。
家賃は37,200円ですが、国から10,000円、自治体から10,000~13,600円の家賃補助があり、経済的負担をかなり軽減できます。
住所:千葉県茂原市本納2316-2
公式ホームページ:https://www.spacepeer.net/grouphome
【栃木県宇都宮市】ファミリー宇都宮
ファミリー宇都宮は一般住宅感を大切にするため看板を設置しておらず、自宅感覚で自立を目指すことができます。
初期費用はなく、家賃は23,500円です。光熱費は10,000円、日用品費が2,000円、食費は30,000円で、1ヶ月の必要経費は65,500円ですが、10,000〜25,000円の家賃補助制度を利用できます。
入居前に無料で施設を内覧でき、体験利用も1日2,000円で受け付けています。
住所:栃木県宇都宮市若松原2丁目13-16
公式ホームページ:http://familyutsunomiya.com/
【静岡県浜松市】エンジェルリング 和合
エンジェルリング和合は男性専用・定員4名という少数体制で、周りを気にせず自立を目指せます。家賃は25,000円で、水道光熱費が10,000円、食費30,000円、日用品費5,000円で、合計70,000円ですが、特定障害者特別給付費が支給される場合、浜松市から10,000円の補助が出ます。
入居前に1泊2日のお試し体験を2,500円で利用できます。
住所:静岡県浜松市中区和合町18-2
公式ホームページ:https://www.hermos-japan.com/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB-%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0/%E5%92%8C%E5%90%88-%E7%94%B7%E6%80%A7%E6%A3%9F/
【北海道札幌市】らむ南郷
らむ南郷は家庭に近い環境で自立を目指せる施設です。冷蔵庫やテレビなど必要な家電は完備しており、レンタル料も不要です。
利用料は敷金35,000円、 家賃35,000円(消耗品を含む)、水道料は定額2,500円で、ガス電気は個人契約となります。食事は朝食250円、夕食550円で実食のみの請求、日・祝日の提供はありません。契約は1年更新で、双方に問題がなければ自動継続となります。
住所: 札幌市白石区本郷通6丁目北5-11シティ本郷34
公式ホームページ:https://www.ramuhouse.jp/cont1/main.html
【秋田県秋田市】グループホームにゃおん秋田市さくら
日本初となるペットケア設備と専門知識を持つスタッフによって生まれたペット共生型グループホーム「わおん」。「グループホームにゃおん秋田市さくら」はそのひとつです。猫ちゃんと一緒に暮らせるのでアニマルセラピーの効果も期待できます。
入居は女性限定で18~64歳までの知的障害・精神障害・身体障害のある方が対象です。
家賃は19,000円で、食費は1食あたり朝300円/ 夜400円、水道光熱費が15,000円、日用品費0円です。国からの補助金(10,000円)を利用した場合、合計45,000円(食費は30日換算)となります。
同市内にわんちゃんと暮らせる「グループホームわおん秋田市さくら」もあります。(家賃は12,000円)
住所:秋田県秋田市桜
公式ホームページ:
グループホームにゃおん秋田市さくら | わおん/ペット共生型福祉施設 (anispi.co.jp)
グループホームわおん秋田市さくら | わおん/ペット共生型福祉施設 (anispi.co.jp)
精神障害者グループホームで新しい一歩を
病院を退院しても症状は完全になくならず、家族と離れて自立生活をしたいと思っても、それに不安を感じる方は少なくないでしょう。家族に迷惑をかけたくないと社会復帰を急いでる方もいると思いますが、無理は禁物です。
精神障害者グループホームであれば必要な支援を受けられるので、自分のペースで自立生活に取り組むことができます。
ホームについて調べてみれば新たな選択肢を見つけることができるかもしれません。
明るい未来に向けて精神障害者グループホームで新しい一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。