厚生労働省が発表している「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、従業員規模5人以上の事業所で働く障害者数は82万1000人、そのうち発達障害者は3万9,000人です。
民間企業で働く障害者数は年々増加しており、障害者の法定雇用率がそれまでの2.2%から2021年3月には2.3%に引き上げられたこともあって、より増えると予測されます。
このような状況から、障害特性を正しく理解して快適に働ける職場環境作りが求められています。
このページでは、発達障害の特徴、種類と特性、職場の同僚など発達障害のある人たちへの接し方、参考になる対応マニュアルなどを紹介します。
出典:厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査」
発達障害とは
発達障害とはどのようなものなのでしょうか。
はじめに、発達障害の特徴、大人の発達障害について紹介します。
脳機能障害によるさまざまな障害
発達障害は生まれつきの脳機能の障害で、親の育て方が関係するものではありません。
脳の発達に偏りがあるため得意・不得意の差が大きく、日常生活に支障が出ている状態です。
発達障害にはさまざまな種類があり、人によって特性や症状は異なります。
また、それぞれの障害を併せ持っているケースもあります。
大人の発達障害が認知されはじめている
発達障害は生まれつきの障害のため、幼少期に何かしらの症状が現れます。
しかし、障害の程度が軽かったり性格的なものと捉えたりして、発達障害だと気付かないケースもあるのです。
それが学校生活の集団行動の中で発覚することは多いですが、そこも超えると今度は仕事での失敗が多いことから、発達障害だと判明するケースがあります。近年ではこのような「大人の発達障害」が認知されはじめています。
発達障害のある方の中には、無理をして周りに合わせようとすることで苦しんでいる人も少なくありません。
失敗を繰り返すため自己評価が低くなり、うつや不安障害など二次障害を引き起こす人もいます。
そのため、周囲の人が発達障害について理解を深めることは、発達障害のある方の生きにくさを解消することにもつながるでしょう。
発達障害の種類と特性
ここでは、発達障害の代表的な種類と特性について紹介します。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASD(自閉スペクトラム症)は2013年にアメリカ精神医学会の診断基準が改訂されてから使用されている診断名で、これまでの自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害をまとめて表したものです。
ASDはコミュニケーション、社会性、想像力に偏りがあり、人間関係に苦労することが多いです。
強いこだわりや興味・関心の偏りがあるのも特徴で、感覚が敏感または鈍感なケースもあります。
【ASDの主な特性・症状】
- 表情や仕草、身振りから気持ちを読み取れない
- 冗談やたとえ話、暗黙のルールが伝わらない
- 自分が好きなことを一方的に話す
- 突然予定が変更すると対応できない
- 上司にも同僚と同じように接する
- 気温の変化や光が苦手
ADHD(注意欠如・多動症)
ADHD(注意欠如・多動症)は不注意・多動・衝動性の症状が現れる発達障害です。
特性によって、日常生活や職業生活でのコミュニケーション、業務などに支障が出ることがあります。
【ADHDの主な特性・症状】
- 集中できず、気が散りやすい
- 忘れ物・失くし物が多い
- 落ち着きがなく、じっとしていられない
- 物事の優先順位がつけられない
- 思いついたらすぐに行動する
- 思ったことをすぐ口に出してしまう
- 単純なミスが多い
- 順番や約束を守るのが苦手
- しゃべりだすと止まらない
- 整理整頓が苦手
LD(学習障害)
LD(学習障害)は知的な遅れがなく、視覚・聴覚の機能にも問題がないにも関わらず、読む、書く、計算する、話す、聞くなど特定のことが著しく苦手で学習が困難な状態にある障害です。
人によって症状の現れ方や程度は異なり、「繰り上がりの計算が苦手」という人もいれば「文字の書き写しが苦手」という人もいます。
【LDの主な特性・症状】
- 文章をスムーズに読めず、一文字ずつ区切って読む
- 「わ」と「ね」など似ている文字を判別できない
- 漢字が覚えられない、またはすぐ忘れる
- 誤字脱字が多い
- 文字の大きさがバラバラになっている
- 図形やグラフを理解できない
- 時計が読めない
DCD(発達性協調運動障害)
DCD(発達性協調運動障害)は身体機能や知的発達に問題がないにもかかわらず、別々の箇所を協調して同時に動かす「協調運動」が困難な状態のことです。
身体を動かしたり指先を使ったりすることが苦手で、周囲の人は「運動音痴」、「不器用」とは思っても、障害だとは考えないことが多いでしょう。
【DCDの主な特性・症状】
- パソコンのキーボードを打つ動作が遅い
- 身体の動きがぎこちない
- 書類を見ながら書き写しができない
- ハサミやコンパスなど道具をうまく使えない
- 物をよく落とす・こぼす
職場の同僚など発達障害のある方にどう接する?
職場の同僚などに発達障害のある方がいる場合、特性に合わせた対応をすることが大切です。
発達障害の種類別に、接し方をチェックしてみましょう。
ASDの場合
ASDの方は、曖昧な表現だと指示や質問の内容を理解できないことが多いです。
職場では「適当に」「なる早で」など抽象的でわかりにくい言葉は使わずに、具体的な業務内容や終わらせる時間などを伝えるように意識しましょう。
予定をきちんと伝え、目標を示すことで理解しやすくなります。
口頭だけではイメージしにくい人が多いため、情報を共有するときは写真や図、文章など目にみえるもので伝えるとよいでしょう。
ADHDの場合
ADHDの方は、周りが気になって集中できない、ケアレスミスが多いといった傾向があります。
職場ではパーテーションを設置して集中できる環境を作る、マニュアル(手順書)を作成する(自分用のマニュアルを作成してもらう)、チェック体制を徹底するなどの対策をとってみましょう。
整理整頓が苦手な場合は、棚や引き出しにラベルを貼るなどの工夫をするのがおすすめです。
LDの場合
LDのある方はそれぞれ特性が違うため、その人の特性に合わせて対応しましょう。
文字を書くのが苦手な場合はメモではなく写真を撮ってもらう、読むのが苦手な場合は文字を大きく表示して読みやすくするなどの配慮をとることで仕事がしやすくなります。
苦手なところを補うように、パソコンやタブレット、ICレコーダーなどのツールを活用するのもおすすめです。
女性で発達障害に悩む方、職場に発達障害の女性がいる方は、発達障害のお子さんとご家族を対象にしたクリニックを自ら開業した著者・宮尾 益知院長の本を参考にするのもおすすめです。
ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 女性の発達障害〈就活/職場編〉
DCDの場合
DCDのある方には、苦手な作業をお願いしない、便利グッズを使って作業をしやすくするなど特性に合わせて対応しましょう。
たとえうまく作業ができなくても、本人がコンプレックスを感じないように笑ったり冷やかしたりしないことが大切です。
グレーゾーンで業務に支障が出ている場合
運動が苦手、コミュニケーションが苦手など、発達障害の特性の中には健常者が「苦手なこと」としてよく挙げるものも含まれています。
ただ、生きづらさを感じるほどに生活に大きな支障が出ていて、「発達障害かもしれない」と本人が感じているなら、自己分析するのは難しいので、専門の医師の診断を受けるべきです。ただ、発達障害の診断は医師でも難しい場合があり、複数の条件を満たさないと発達障害の診断は下りず、いくつかの症状が出ていても「傾向がある」に留まるケースもあります。この状態が「グレーゾーン」です。
グレーゾーンは症状が軽いというわけではないので当事者の悩みは深く、しかし、診断が下りないので、職場で障害に対する配慮をしてもらうことが難しいという状況に陥りがちです。
グレーゾーンの状態で悩んでいる(悩んでいると思われる)人が職場にいる、業務に支障が出て周りのスタッフも困っているという場合は、紹介してきた各種発達障害のある人への接し方を実行してみましょう。
グレーゾーンの方も含め発達障害者の方との接し方を具体的に知りたい方はこちらの本も参考にどうぞ。
職場にいるメンタル疾患者・発達障害者と上手に付き合う方法
発達障害のある方が働きやすくなる対応マニュアル
発達障害の方が働きやすくなる環境作りのために、企業などに向けたさまざまな対応マニュアルがあります。
職場の同僚等、発達障害のある方の困りごとや対応がわからないときは、ぜひ参考にしてみてください。
広汎性発達障害や自閉症スペクトラム障害のある者のための雇用支援ガイド
広汎性発達障害・自閉症スペクトラム障害のある方への配慮や支援の考え方などをまとめたリーフレットです。
事例からみた就労支援の課題や対応例、雇用管理のポイントなどをチェックできます。
詳しくはこちら↓
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター
「広汎性発達障害者・自閉症スペクトラム障害者の雇用支援のために……事業主と自閉症・アスペルガー障害など広汎性発達障害や自閉症スペクトラム障害のある者のための雇用支援ガイド……」
発達障害を理解するために2~就労支援者のためのハンドブック~
こちらは発達障害のある方を雇用している、または雇用する予定の会社をサポートする就労支援者に向けて、支援の際に必要な知識や支援ノウハウをまとめたハンドブックです。
発達障害のある方が職場で困っていることや発達障害の原因や特性、支援のポイントなど幅広い内容が書かれているので、職場に発達障害の方がいるという場合にも役立つでしょう。
詳しくはこちら↓
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター
「発達障害を理解するために2~就労支援者のためのハンドブック」
発達障害のある人の雇用管理マニュアル
発達障害のある方の雇用促進のため、障害特性の理解や支援体制の整備などに管理者や雇用者が活用できるよう作成されたマニュアルです。
雇用管理で配慮すべきポイントや発達障害のある方が戸惑いを感じているときの対応、雇用事例などをチェックできます。
詳しくはこちら↓
一般社団法人 雇用問題研究会
「発達障害のある人の雇用管理マニュアル」
障害者雇用マニュアル 発達障害者と働く
発達障害のある方の雇用ノウハウをコミック形式も取り入れて紹介しているマニュアルです。
発達障害の特性や雇用に関するデータをまとめた基礎編、事例や支援ポイントを実務編があり、わかりやすく解説されています。
詳しくはこちら↓
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構
「コミック版5 障害者雇用マニュアル 発達障害者と働く(2019年8月)」
発達障害者と共に働くなるほどガイドブック
発達障害について、事例、特性に合わせた職場の工夫などをチェックできるガイドブックです。
発達障害のある方が働く職場のレポートもあり、実際の対応の参考にできます。
詳しくはこちら↓
京都府
「発達障害者と共に働くなるほどガイドブック」
発達障がいのある方をサポートするグループホーム
「大人の発達障がい」が知られるようになり、自身の生きづらさ、働きづらさの原因が障がいにあるとわかって、周囲の協力も得て問題を解決していっている方は増えています。
その中で社会人としての自信を得て、親元を離れて自立を目指す人もいます。
そのような障害のある方の受け入れ先として全国的に増加し、利用者も増えているのが障害者グループホームです。
施設によって、身体障がい、精神障がい、知的障がい、発達障がいと受け入れる障がいの種類、程度は異なりますが、地域の中でほかの障害のある方と共同で暮らすという特徴もあり、比較的軽度の障がいのある方を対象としている場合が多いです。
その中で、わんちゃんや猫ちゃんと暮らせるという珍しい障がい者グループホーム「わおん」は注目を各方面から集めています。
障がいのある方やそのご家族、障害者グループホームの設立を目指す方、そして、福祉の現場で働きたいという方です。
障がいのある方が職場にいて、サポートをしたことがある方は、その経験を活かして働きませんか?
全国各地の「わおん」では、業界未経験の方歓迎の求人も多数出されています。
まさに「人のためになる」という仕事をしたい方はぜひ募集内容を見てみてください!
[blogcard url=https://waon.omros.jp/]