強度行動障害支援者養成研修とは?目的、対象者、各地の実施例について

福祉の仕事をしたい方コラム

厚生労働省が認可している公的資格の1つである「強度行動障害支援者養成研修」。この研修を修了することにより強度行動障害を患っている方への理解が深まります。

そのため、実際に福祉サービス事業所や児童福祉施設で勤務している方や、今後、障害者介護や支援の現場で働きたいと考えている方は、研修を受けることで、より寄り添った支援を実現できるでしょう。

このページでは、強度行動障害の定義と原因、強度行動障害支援者養成研修の目的や対象者、各地の実施例について解説していきます。

 

強度行動障害とは

強度行動障害とはどのような障害なのか、その定義や原因、支援のポイントを紹介します。

 

強度行動障害の定義

強度行動障害の定義は以下のようなものです。

  • 自身の顔を引っ掻く、体を壁に打ち付けるといった自傷行為、身に危険を及ぼすような飛び出し、食べられないものを口にするなどの健康を害する行動を取る
  • 何時間も大泣きする、物を破壊する、他人を殴るような他傷行為など、周りの人の生活にも影響を及ぼす、顕著な生活環境への不適応行動を取る
  • 上記のような行動が日常生活の中で頻繁に現れるので、特別に配慮された支援が必要な状態である

 

強度行動障害になる原因

強度行動障害は重度もしくは最重度の知的障害を患い、自閉症の特性も持つ、思春期以降から成人期の方に多く現れます

興味関心の限定や過度な執着、感覚の過敏性といった障害特性に、本人を取り巻く環境が合っていない。それによる不安、不快感を周りに伝えようとするが伝わらない。改善されない状況に不安・不快感が増す。

このような流れが繰り返されると、人や場に対する嫌悪感や不信感が高まり、それが原因で強度行動障害に見られるような行動を取るようになるのです。

 

支援のポイントは「構造化」

構造化とは、物事の「意味」を本人にとってわかりやすい形にすることです。情報を整理することでその人が理解できる環境を作ります。

具体的には、

  • 苦手な刺激を取り除く、場所と活動を1対1にするといった「物理的な環境の構造化
  • やることや予定を写真等で提示する、ひとりでできる活動を用意するといった「時間的な環境の構造化
  • 本人の要求や拒否の仕方を理解して読み取る、話しことばに頼らないコミュニケーション手段をとるといった「人的な環境の構造化

などがあげられます。

工夫や試行錯誤を繰り返し、わかりやすい形に変えていくことが、強度行動障害のある方が一人でできる活動を増やすことにつながります。

 

強度行動障害支援者養成研修とは

勉強する人

強度行動障害支援者養成研修は、何を目的としている研修なのか、研修の種類、研修を修了することで対象となる加算について紹介します。

 

強度行動障害支援者養成研修の目的

強度行動障害支援者養成研修は、「障害者総合支援法」における都道府県地域生活支援事業として、強度行動障害のある方に適切な支援ができる人材を育成するために行われます。適正な支援計画を作成できるようになること、ならびに障害福祉サービスに関して必要な知識・技能を習得することを目的としています。

 

基礎研修と実践研修がある

強度行動障害支援者養成研修には、基礎研修実践研修の2つがあります。まず基礎研修を修了し、その後に実践研修を受けるのが一般的です。

基本的には座学と演習による研修で、試験はありません。研修をすべて受講すると、修了証が授与されることがほとんどです。

研修費用は都道府県や実施機関、企業によって異なるので、受講する前に調べてみるとよいでしょう。

 

研修修了者がいると加算がある

強度行動障害支援者養成研修修了者を共同生活援助、放課後等デイサービスなどで雇用すると加算要件の対象となります。加算対象となる公的資格保有者ということで、書類選考や面接の際に評価され、採用される可能性が高くなると考えられます。

それでは、強度行動障害支援者養成研修を修了した方が強度行動障害のある方を支援した場合、各福祉サービスで算定される加算を見ていきましょう。

 

施設入所支援

施設入所支援は、

  • 夜間や休日において介護や支援が必要な人
  • 自立訓練や就労支援の実施が入所しながらのほうが効果的と判断される人
  • 通所して訓練を受けることが困難な人

    などが利用対象者となります。

研修修了者を配置し、強度行動障害のある方を入所させている障害者支援施設は、下記の通り基本報酬に加算がされます

  • 実践研修修了者を配置、届出し、支援計画シート等を作成7単位/日
  • 実践研修修了者作成の支援計画シート等をもとに、基礎研修修了者強度行動障害のある方に対して夜間支援を実施180単位/日

 

生活介護

強度行動障害のある方が、障害者支援施設が行う生活介護を通所で利用している場合、下記のように研修修了者を配置していると加算を受けられます

  • 強度行動障害支援者養成研修の実践研修修了者1名以上配置し、支援計画を作成する体制を整備7単位/日
  • 同研修の基礎研修修了者が、実践研修修了者作成の支援計画シート等をもとに、強度行動障害のある方に対して個別支援を行う⇒180単位/日

 

短期入所

短期入所重度障害者等包括支援対象者に相当する方サービスを提供すると50単位/日が加算されます。
さらに、基礎研修修了者が強度行動障害のある方に支援を実施すると10単位/日の加算となります。

 

共同生活援助

共同生活援助(グループホーム)の場合、以下の条件をすべて満たすと360単位/日の加算があります。 

  • 重度障害者等包括支援の対象(区分6かつ意思疎通が困難である等の一定要件を満たす)となる障害者が1名以上いる
  • 生活支援人を加配している
  • サービス管理責任者または生活支援人のうち、1名以上実践研修修了者もしくは喀痰吸引等研修(1号または2号)修了者
  • 実践研修修了者を配置し、かつ行動障害のある方がいる場合、当該利用者にかかる支援計画シート等を作成する
  • 生活支援人のうち20%以上基礎研修修了者または喀痰吸引研修(1号、2号または3号)修了者

さらに、2021年2月の改訂で、区分4以上の強度行動障害を有する者も算定対象となり、180単位/日という重度障害者支援加算が新設されました。

また、強度行動障害のある方が地域移行を目的にグループホームで体験利用をする場合も加算対象となる可能性があります。強度行動障害支援者養成研修または行動援護従業者養成研修修了者が配置されているグループホームというのが要件で、該当する場合400単位/日の加算対象となります。

 

児童発達支援・放課後等デイサービス

児童発達支援放課後等デイサービスについて、障害児通所支援給付費の算定に必要となる従業者のうち、1以上が児童指導員、保育士または基礎研修を修了している場合、加算があります。要件を満たして届け出ることで利用定員に応じた単位の加算が受けられます。

児童指導員等配置加算の単位数

定員 児童発達支援 放課後等デイサービス
授業終了後に行う場合 休業日に行う場合
定員10名以下 12単位/日 9単位/日 12単位/日
定員11名以上~20名以下 8単位/日 6単位/日 8単位/日
定員21名以上 6単位/日 4単位/日 6単位/日

参考:
http://www.omiya-fukushi.co.jp/common2/objfiles/D05803_201935143325_0.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000733747.pdf

 

強度行動障害支援者養成研修例

強度行動障害支援者養成研修は各地方自治体や委託された財団法人、民間企業などが実施しています。

ここでは全国各地の実施要綱などを紹介していきます。

なお、基礎研修、実践研修ともに、欠席、遅刻、早退などをすることなく全研修を受講しないと修了とみなされないので気をつけましょう。

【令和3年度】東京都

東京都の場合、都から委託を受けた「公益財団法人東京都福祉保健財団」が研修を実施しています。東京都内の障害福祉サービス事業所等から推薦を受けた場合、推薦がない個人申込の場合、医療従事者の場合で、それぞれ受講申込フォームが異なります。

  • 基礎研修(令和3年度の申込受付は終了しています)
    対象者:東京都内の障害福祉施設等にて強度行動障害(知的障害・精神障害)のある方(児)の支援業務に従事中もしくは予定のある方
    ※たとえば、サービス管理責任者・サービス提供責任者・支援員・児童指導員として従事している方。障害福祉施設の連携医療機関で治療にあたる医療従事者も含む
    研修期間:4日間計12時間(講義2日間・計6時間30分/演習2日間・計5時間30分)
    ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため講義・演習ともオンライン。すべて視聴したことが主催側で確認できないと修了と認められません
    費用:受講料無料

令和3年度カリキュラム案
https://www.fukushizaidan.jp/wp-content/uploads/2021/04/116-kk-curriculum.pdf

  • 実践研修(令和3年度の募集要項は6月に決定予定)
    対象者:基礎研修を修了されている方で、東京都内の障害福祉施設等にて基礎研修対象者同様に従事中もしくは予定のある者。
    サービス管理責任者・サービス提供責任者等として支援計画の作成等にあたる方
    研修期間:5日間計12時間(講義3日間・計6時間/演習2日間・計6時間)
    ※基礎研修と同様、講義・演習ともオンライン。すべて視聴したことが主催側で確認できないと修了と認められません
    費用:受講料無料

募集要領、開催要領はこちら↓
https://www.fukushizaidan.jp/116shougai/kyoudokoudou

 

【令和3年度】埼玉県

藤仁館医療福祉カレッジでは埼玉県知事指定として強度行動障害支援者養成研修を実施しています。

  • 基礎研修
    対象者
    原則、障害福祉サービス事業所等において、知的障害や精神障害のある児者対象の業務に従事している方、もしくは今後従事する予定の方
    研修期間:2日間
    費用: 22,000円(税込)
  • 実践研修
    対象者
    :基礎研修を修了した方で、基礎研修対象者同様の条件で従事している、もしくは従事予定の方
    研修期間:2日間
    費用: 22,000円(税込)

令和3年度研修日程等はこちら↓
http://www.omiya-fukushi.co.jp/kyodokoudou.html

 

【令和2年度】神奈川県

神奈川県の指定を受けて相模原市で実施された基礎研修の例です。

対象者:相模原市内の指定障害福祉サービス事業所または指定障害者支援施設、指定障害児通所支援事業所または指定障害児入所施設にて、特に知的障害もしくは精神障害のある方に対する支援業務に従事中または従事予定の方
研修日程:令和2年12月14日・15日の2日間(講義・約6時間30分/演習・6時間)
費用: 受講料5,000円(テキスト代、資料代等)
問い合わせ先:社会福祉法人相模原市社会福祉事業団 地域支援課

詳細はこちら↓
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kurashi/fukushi/1021202.html

カリキュラム詳細
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/021/202/02.pdf

 

【令和2年度】千葉県

特定非営利活動法人生活サポート千葉主催の基礎研修実施例です。
対象者:障害福祉サービス事業所等にて、知的障害や精神障害のある児者を支援対象とした業務に従事中、もしくは今後従事する予定のある方
研修期間:2日間(講義・6時間/演習・6時間)
費用:  15,000円

詳細はこちら↓
https://www.pref.chiba.lg.jp/shoji/kenshuu/index.html#kyoukou

 

【令和3年度】愛知県

愛知県のホームヘルパー養成事業、有料職業紹介事業、介護者派遣事業などを行う「介護カンパニー」では、下記の通り強度行動障害支援者養成研修を実施しています。

  • 基礎研修
    対象者
    :資格・未経験の方も受講可
    研修期間:6月19日・20日の2日間
    費用: 受講料18,700円(税込)・テキスト代3,520円(税込)
  • 実践研修
    対象者
    :基礎研修を修了している方
    講義日程:6月5日・6日の2日間
    費用: 受講料18,700円 テキスト代3,520円

申込書(PDFファイル)など詳細はこちら↓
https://www.kaigo-careco.co.jp/school/index.html

 

【令和2年度】大阪府

  • 基礎研修
    大阪府障がい者自立相談支援センターが実施した基礎研修の概要です。
    対象者:原則、大阪府内の障害福祉サービス等事業所等において、知的障害、精神障害のある児者を支援対象とした業務に従事中の方、もしくは従事する予定のある方
    ※大阪府内の障害福祉サービス事業所等の連携医療機関等において治療に当たる医療従事者も含む
    研修期間:2日間(1日目の「講義」はYouTubeによる配信等、映像講義。2日目の「演習」は研修会場にて実施
    費用: 受講料6,000円

詳細はこちら↓
http://www.pref.osaka.lg.jp/jiritsusodan/kyoukou-kiso/index.html

 

  • 実践研修
    大阪府立砂川厚生福祉センターが実施した実践研修の概要です。
    対象者:基礎研修を修了した方のうち、前述の基礎研修の対象者と同様の条件に当たる方
    講義日程:2日間(1日目の「講義」はYouTubeによる配信等、映像講義。2日目の「演習」は研修会場にて実施
    費用: 受講料6,000円

詳しくはこちら↓
http://www.pref.osaka.lg.jp/sunagawa/sunagawa/oshirase.html

 

未経験者も募集中!障害者グループホーム「わおん」

抱っこされる犬

強度行動障害支援者養成研修の資格をお持ちの方で動物好きの方は、ペット共生型グループホーム「わおん」での勤務を検討しませんか?

強度行動障害支援者養成研修を修了されている方は、得た知識を活かせる場面があるはずです。

「わおん」は障害のある方と保護犬・保護猫が暮らすグループホームです。障害者の受け入れ先の不足×空き家問題×ペット殺処分問題の解決・貢献を目的としています。

 

入居者は軽度障害の方

わおんのグループホームには、18~64歳までの主に軽度の精神障害、知的障害のある方が入居しています。昼間は働いている方も多いので、スタッフは夜間を中心に入居者が必要とする介護・サポートをします。

強度行動障害支援者養成研修で得た知識は軽度障害の方と接する中でも活かすことができるでしょう。

 

保護権・保護猫との共生型グループホーム

ペットと生きる毎日は希望と活力を与えてくれます。それが「アニマルセラピー」の効果として精神障害の症状改善につながるともいわれています。

障害のある方と保護犬や保護猫が一緒に過ごす「わおん」は入居者へのアニマルセラピー効果が期待できる、全国でも珍しい障害者グループホームです。

動物好きの方にとっては、かわいい動物と過ごせる貴重な職場でもあるでしょう。

 

資格なし。未経験者OKの求人あり

介護福祉の資格がない方でも応募できる世話人や夜間職員の求人もあります。

福祉の仕事を探している方は勤務先の候補に入れてみてはいかがでしょうか。

https://anispi.co.jp/waon/recruit/