路上で生活する女性のホームレスたち。精神疾患を抱える彼女たちが、福祉に救われない理由はなに?

そのほか

街を歩いていて、ホームレスを見かけたことがある人は多いだろう。ただし、女性のホームレスはほとんど見かけない。女性ホームレスは男性ホームレスに比べて、圧倒的に少ない。政府の発表ではホームレスの3パーセントが女性とのことだ。

 

女性ホームレスが少ないわけは、女性のみを対象とした福祉制度があるというのも大きい。特に、僕が取材を始めた20年ほど前は、女性のホームレスを選んで保護していた。

 

その他にも、男性に依存したり、女性特有の職業である性風俗などに身を預けることでホームレスにならずにすんだ人もいる。色々問題はあれど、女性がホームレスにならずにすんでいることじたいは悪いことではない。ではそのような中、どのような女性がホームレスになるのだろうか?

 

僕が、女性のホームレスを取材してまず感じるのが、会話がなりたたない人が多いということだ。もちろん男性でも、会話が成立しない人はたくさんいる。ただ、割合は圧倒的に女性のほうが高かった。

 

 

 

 

上野公園でテント生活をしていた60代くらいの女性に話しかけると、いきなり

「なにー!! バカにしてるのか!! お前みたいなヤツはいつでも殺せるんだぞ!! そこで待ってろ!!」

と怒鳴られた。

 

そして、女性はテントの中からカマを取り出した。

「お前なんか殺せるんだからな!!」

と言って、こちらをジッと睨むので、ほうほうの体で逃げた。
僕は
「すいません、お話うかがってよいですか?」
と聞いただけなので、かなり過敏な反応だろう。

 

 

 

 

横浜の寿町の『寿町総合労働福祉会館』(現在は解体された)の駐輪場のあたりで生活していた50代くらいの女性にも同じ様に話しかけると

「殺すのかー!! 私を殺すのか!!」

と大声で叫ばれた。

センターにいた若い男性に囲まれてしまい

「お前何した? ここで何してる? 殴るぞ?」

とかなり強い調子で恫喝された。

 

当時は、活動家的な若いホームレスの男性がいたのだ。何もしてませんよ、話を聞かせてくださいと言っただけですよと言い訳をするが

「いや!! 殺そうとした!! 私を殺そうとした!!」

と隣で怒鳴られるので、弱ってしまった。男性の目はかなり怒りにみちみちていて、本当に暴行されそうだったので、とにかく謝りながら逃げ帰った。

 

 

 

 

そこまで、攻撃的ではなく、会話もある程度できるのだが、それでも最終的にはコミュニケーションが取れない人もいた。真冬の池袋駅でうずくまるように座っている60歳前後の女性がいたので話しかけると、女性は明るく笑いながら

「ずっと仕事をしてるんだけど、なかなか終わらなくて、大変なのよ」

と教えてくれた。

 

会話だけを切り抜いたら普通だ。

どんな仕事をしてるのですか?と聞くと手元に置かれたペットボトルを指差す。彼女の足元にはいくつものペットボトルが置かれていて、その中にはちぎった雑誌やちり紙がみっちりと詰められていた。彼女はずっと、紙をちぎってペットボトルに入れ続けているのだ。それが、彼女の“仕事”だという。他の会話も、少しずつズレていて、ずっと話を聞いていると、平衡感覚がおかしくなったような変な気持ちになった。

 

大阪の天王寺の歩道橋にいると70歳前後の女性が近くになった。彼女は一人でつらつらと話し始めた。

 

「あの時はものすごいありがとうございました。今日は声が出ません。悪い心臓を入れられていますから。アフリカから剥製の心臓をもらう予定ですから。それを交換する予定ですから。アフリカの病院には冷凍された剥製があと何体残っているか医者に聞いています……。5億万兆円もらわないといけません。もらえますか?もらえますか?16億万兆円もらえますか?」

と繰り返し繰り返し話し続けた。

 

ずっと聞いていると、頭がぐんにゃりとしてきた。近くにいたホームレスの男性から、うるさい!!と怒鳴られると、一旦は話がおわるがまたしばらくすると語り始めた。女性がいつか暴力を受けてしまうのではないかと思い、気が気でなかった。

 

 

 

 

僕がよく通った歌舞伎町のはずれの路上には、いつも倒れて寝ている女性がいた。キンキンに冷えた2月の夜にも彼女は歩道で寝ていた。いつも通りかかるたびに、ドキッとしてしまう。心配になって様子を伺っていると目を覚ましたので、

 

寒くないですか? と聞くと

「寒いですよ」

と答えた。

 

カイロでも買ってきましょうか?と言うと、

「カイロもありがたいんですけど、できればコンビニの唐揚げのほうが嬉しいです」

と言われた。少々ちゃっかりしてるなと思いつつ目の前のコンビニで買ってきて手渡す。

 

しばらく生い立ちを聞く。

 

女性は、若い時から水商売で働いてきたという。店のママをしたり、大衆的な食堂で働いたりしてきたらしい。

 

「なんて言ったって、朝の4時頃はとても眠たくなりますね。でもお客さんは次から次に入ってくるのです。新宿では客を引かないとお客さんは、入ってきませんよ。区役所あたりのお店でもみんな客を引っ張ってますよ。昭和の時の生き残りの年を取った人もね。遊んでいては暮らしてはいけないからね」

 

話を続けていると段々、話を理解するのが難しくなってくる。まともな部分もあるが、混乱している部分もある。そこを見極めるのはとても難しい。話し終えると、倒れるようにまた路上に寝てしまった。冬の路上で眠るのはとても身体にこたえる。彼女は数年に渡り、歌舞伎町の路上で寝続けていた。ある日、いなくなっていたがその後どうなったのかは聞いていない。

 

もしかしたら、救急車で病院に運ばれてしまったのかもしれない。彼女も会話はできるのだけれど、やはりどこか精神を病んでいると思う。または、老化による認知症の症状も出ているのかもしれない。

 

 

 

20年取材する中で、多数の女性のホームレスに話を聞いてきた。精神を病んでいると思われる人はたくさんいた。今回は書かなかったが、もちろん普通にやりとりできる女性もいた。ただし、割合は少なかった。

 

あからさまに精神を病んでいる人は場合、路上生活を放置し続けるのではなく、保護施設の預かりにしたほうが人道的だと思う。

 

「本人が路上にいたいと言っている」という理由で放置していては、命の危険もある。ただ、もちろん、ボランティアや市職員などが話しかけていると思う。ただ、やはり奇声を上げられてしまい保護するどころではなくなっている場合も多いのだろう。

 

また

「自由が奪われるのがいや」

「指示されるのに我慢できない」

などの理由から、保護されるのを強く拒否する人もいる。

 

一旦保護施設に入所しても、周りと上手くやっていくことができず、逃げ出してしまうこともある。そういう女性がホームレスを続けている場合も多い。

 

もちろん

「ホームレスだから強制的に無理やり収容する」というのも間違っている。

ただ、自分が置かれている状況を認識できない人を放置するのはやはり良くない。

「女性が倒れている」と警察官に報告しても、

「ああ、あの人はホームレスだからほっておいてくれていいですよ」

とめんどくさそうに対応されたこともあった。

 

どう対応すればいいのか、簡単に答えはでない。とても、繊細で、解決が難しい問題なのだが、やはり「めんどくさいから放置しておこう」というのは基本的人権の尊重を無視した行為だと思う。

 

路上で困っている人たちは、保護施設で受け入れられる体制を整える必要があるだろう。

 

著者: 村田 らむ

2020.3.21.