今回の福祉書評12は、
「行って見て聞いた 精神科病院の保護室」
~精神科の保護室(隔離室)という特殊で、おどろおどろしい場所のイメージが変わる一冊!~
「行って見て聞いた 精神科病院の保護室」 (日本語) 大型本 – 2013/4/8 三宅 薫 (著)
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著者の三宅薫さんは、取材当時、医療法人学而会木村病院に勤務する看護師だ。
人から精神科病院の保護室(隔離室)について聞かれると、考えてしまっていたという。
精神病院の保護室(隔離室)と聞くと、非常に恐ろしい場所を想像する方も多いのではないか。
精神病院または精神科は、患者が主に自傷他害の恐れがある際に、保護室(隔離室)と呼ばれる個室に隔離し、行動を制限することがある。
もちろん、患者の行動を制限する際には、明確な基準が定められている。
‘’「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十七条第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」
第三 患者の隔離について
一 基本的な考え方
(一) 患者の隔離(以下「隔離」という。)は、患者の症状からみて、本人又は周囲の者に危険が及ぶ可能性が著しく高く、隔離以外の方法ではその危険を回避することが著しく困難であると判断される場合に、その危険を最小限に減らし、患者本人の医療又は保護を図ることを目的として行われるものとする。
(二) 隔離は、当該患者の症状からみて、その医療又は保護を図る上でやむを得ずなされるものであつて、制裁や懲罰あるいは見せしめのために行われるようなことは厳にあつてはならないものとする。
(三) 十二時間を超えない隔離については精神保健指定医の判断を要するものではないが、この場合にあつてもその要否の判断は医師によつて行われなければならないものとする。
(四) なお、本人の意思により閉鎖的環境の部屋に入室させることもあり得るが、この場合には隔離には当たらないものとする。この場合においては、本人の意思による入室である旨の書面を得なければならないものとする。
(引用 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80136000&dataType=0&pageNo=1)‘’
私はPSW(精神保健福祉士)といって、心の病や精神障害者のケアにまつわる国家資格を保有しているが、それでも、知識・体験として一つの病院の実態やその他の病院での保護室の存在は知っていても、その他全国各地にある多くの病院の実態は分からずにいた。
本書では、全国35病院(著者の馴染みがある土地ということで、千葉県や愛知県の病院に集中してはいるが)の保護室を間取り・ドアやトイレなどの作り、建築上の配慮・防音や清潔などの観点より、間取り図や写真入りで紹介している。
そして、各病院の看護師へのインタビュー形式により、自院の保護室の工夫や優れている点、改善点や看護師自身への配慮の状況が記載されている。
何よりも保護室に関わる医療従事者のマンパワーの多さに驚かされる。
一例をあげる。船橋北病院 男女混合閉鎖病棟(D棟)には保護室が8床あるが、朝食と夕飯時には3名の看護師、夜勤でも2名の看護師が勤務している。
朝食と夕飯時では約2名につき1人である。
障害福祉施設や老人介護施設で、ここまでの手厚い看護(介助)ができる施設など、ごく限られた高級施設のみだろう。
それだけの人数で、患者の安全に配慮し、食事や排便のケアをしている。頭が下がる思いだ。
実際に、患者の中には、看護師に話を聞いてもらえる、人の視線を避けられる、静かで落ち着いた空間であることから、個室である保護室(隔離室)から出たくないという人もいるという。
精神医療の現状はタブー視され、閉鎖的であったこともあり、なかなか語られることがない。
是非とも下記記事もご覧いただきたい。
日本の精神医療と脱施設化の課題 ~隔離の歴史と障害者への根強い偏見~
https://anispi.co.jp/etc/post-3153/
議論されないことによる偏見は非常に多いので、弊社webページや「あいである広場(https://ai-deal.jp/)」においても情報発信をし、議論を活性化させていきたいと思っている。
ぜひ、福祉関係者の方にも手に取ってもらいたい一冊だ。