【福祉書評16】「発達障害 僕にはイラつく理由がある!」かなしろにゃんこ。著 (こころライブラリー)

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今回は、「発達障害 僕にはイラつく理由がある!」かなしろにゃんこ。著 (こころライブラリー)

 

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をご紹介する。

 

本書はあいである広場にてご紹介している、「発達障害で問題児でも働けるのは理由(ワケ)がある!」の姉妹編だ。ぜひ合わせて読んでいただきたい。

 

作者のかなしろにゃんこ。さんは、発達障害のある息子 リュウ太君の母で、漫画家である。

 

他にも「うちの子はADHD 反抗期で超たいへん!https://amzn.to/35FMFFQ)」など、発達障害関連の著書がある。

 

漫画がメインとなっているが、監修・解説には、東京女子大学教授で公認心理士・臨床心理士でもある、前川あさ美さんがプロの視点でのアドバイスを書いている。

 

リュウ太君にはADHDと軽い自閉症スペクトラム障害がある。冒頭では、そんなリュウ太君を母のかなしろさんは「まるで宇宙人だわ!人間とうまくつきあえずに地球になじめてない宇宙人だ!」と表現している。

 

私の頭の中には、何人もの利用者さんの顔が思い浮かんだ。そんな宇宙人のような発達障害の方が私は大好きだが、最初のうちは理解できずに頭を抱えたこともある。そんな感想を持ったことのある支援者や親御さんは多いのではないか。

 

そんな息子さんのことを明るいタッチで、描いている。

 

 

 

 

リュウ太君に発達障害があると分かったのは、小学校4年生の時だ。療育にスムーズに行けたわけではなく、母のかなしろさんは、凸凹のあるリュウ太君の育児に頭を抱えることとなった。

 

姉妹編の「発達障害で問題児 でも働けるのは理由(ワケ)がある!」にも共通しているのは、母のかなしろさんからの視点だけで描いているわけではなく、リュウ太君本人が、どういった心境だったかを語っている点だ。親御さんは必死に育児をし、支援者も何とか理解しようとして関わっても、コミュニケーションの苦手さを抱える当事者の気持ちは無視されがちなのが現状ではないか。

 

読み進めていくうちに、親や支援者からすると「問題行動」と受け止められることにも、きちんと理由があることが分かる

 

本書は周囲の人たちが感じる「なぜ?」に対し、case1~case9まで具体例を挙げて、そのときのリュウ太君の気持ちと、どう接すればよかったのかという対応法が描かれている。

 

私が印象に残ったエピソードはcase1「話し出すと止まらないのはなぜ?」だ。

 

小学校3年生のリュウ太君は、在宅で仕事をしているかなしろさんに、自分が話したいことをしゃべり続け止まらない。相手が聞く姿勢にあるかは考えない。それが原因になり学校で嫌われることもあった。かなしろさんがトイレに入っていても、続くおしゃべりに、頭を抱えていた。

 

大人になったリュウ太君に聞いてみると、話し続けることにもきちんと彼なりの理由があった。

 

大人になったリュウ太君は「お願いだから今から2時間は話しかけてこないでね!」というように、はっきり言われないと話し続けていいのか、ダメなのか分からなかったという。

 

前川あさ美先生は、「話し続けてしまう理由と気持ちを受け止めましょう」とアドバイスする。その際に「時間を割いてあげたい。でも、正直、困る」という親御さんへのアドバイスも合わせて書いている。非常に具体的で、親や支援者も気持ちが楽になるだろうと思う。

 

Case4「ごめんなさいが言えないのはなぜ?」など、読んでいると、他人事とは思えなかった。リュウ太君は「だってオレが謝ったところでやってしまったことは取り消せないだろ。謝ったって相手は水に流してくれるわけじゃないし、むしろ怒ったままだったりする。謝ること自体に意味があるのかな?と思った」と答えている。私は同じことを、知人の発達障害者に言われたことがある。大人は「怒らないよ」と言いながらも、理由を聞いたら怒る場合がある。特に社会人になれば、謝ったところで、許されない場面はいくらでもある。果たして悪いのは、発達障害当事者なのか。それとも、健常者といわれる我々なのか。考えさせられる。

 

本書では家庭や学校での日々の困りごととその対処法が、非常に具体的に描かれている。本になると敬遠してしまう方も、漫画ならば気軽に読んでみる気になるのではないか。

 

本書は、発達障害を持つ子だけではなく、健常児といわれる子どもたちの気持ちを知ることのできる本だと思う。健常者(児)であろうと、障害者(児)であろうと、何かをするにもしないにも、100人いれば100通りの理由がある。私は支援者として、そういった100通りの理由に丁寧に寄り添う支援をしていきたいと思った。「問題行動」が親や支援者が引き起こしているかもしれないという視点に立ち返れる一冊だ。