今回は、2021/2/19に発売されたばかりの「うらやましい孤独死―自分はどう死ぬ?家族をどう看取る?(https://amzn.to/3aYypLq)」森田洋之著をご紹介する。
著者の森田洋之氏は、在宅医療・地域医療・医療政策を専門とする医師だ。著書に『破綻からの奇蹟(https://amzn.to/3kwPOhp)』『医療経済の嘘(https://amzn.to/3uH5umG)』『日本の医療の不都合な真実(https://amzn.to/2ZYrRpO)』などがある。2009年より財政破綻した北海道夕張市立診療所に勤務した後、鹿児島県で「ひらやまのクリニック」を開業、研究・執筆・講演活動にも積極的に取り組んでいる。
筆者が「うらやましい孤独死」という言葉を耳にしたのは、6年前、夕張にいた頃だった。
ある高齢者女性が独居の実姉の孤独死(https://ai-deal.jp/column/post-2117/)について発した言葉だった。筆者は自分が抱いていた悲壮感のある「孤独死(https://ai-deal.jp/column/post-2117/)」という言葉と「うらやましい」という言葉のギャップに戸惑った。
本書では、一人きりで亡くなろうと、家族や地域に支えられ「自分が思う最期」を迎えた高齢者のケースがいくつも出ている。人間は必ず死ぬ。致死率は100%だ。今、私は障害者向けグループホーム「わおん(https://anispi.co.jp/waon/)」事業を展開している。
本書に出てくるケースは、高齢者だけではなく障害者支援にも通じる「当事者ファースト(医療・介護・福祉において医療介護従事者の都合ではなく、本人やそのご家族の意志を第一にすること)」の精神がいかに大切か書かれている。
私は若い頃に父を亡くしている。そして、私自身も45歳となり、自分の死や残された母の介護や終末期を身近な問題として感じるようになった。死に様は生き様に通じる。私は胃ろうにつながれ、施設や病院で寝たきりで最期を迎えるよりも、最後まで好きなサッカーや仕事をしながら死にたい。そして、その選択が尊重される医療や介護サービスがあったら、その死は幸せだろう。本書では日本の医療システムの矛盾や介護サービスへの疑問への答えが解き明かされている。
いくつかの事例があるが、私が一番印象的だったのは、筆者が夕張で出会った時田さん(仮名)の事例だ。時田さんは80代で重度認知症のおばあちゃん。足腰が強く毎日徘徊もする。森田氏も書いているが、認知症というと「何もわからなくなる」イメージが強いと思う。
しかし、認知症は昨日、何を食べたか・どこに行ったかという記憶に障害が生じるだけで、人格や性格は変わらない。特に長年の習慣にしてきたことや、若い頃の記憶は鮮明に覚えている。そして、現行の制度では、重度認知症になった高齢者は介護施設で最期を迎えることがほとんどだ。しかし、直近の記憶ほど忘れていく。そして、生まれ育った家から引き離される。そのことにより、不安になり暴れたり叫んだりすると、医療介護従事者はそれを「問題行動」と呼ぶ。これは、自閉症支援にも通ずる話で、強度行動障害は本人の意志を無視したときに起こる(「奥平綾子(㈱おめめどう 代表)④ ~障害とは克服するものではなく、上手に付き合うもの~ https://ai-deal.jp/interview/post-902/)。
重度認知症になった独居の時田さんの場合、現行の制度では都市部だったら施設入所を勧められるケースだ。しかし、医療・介護関係者も地域の人たちも、時田さんを地域で受け入れた。施設に入所することなく、昔から続けていた小さな商店の営業も続け、落ち着いて暮らしていたという。筆者はその光景に衝撃を受けた。
このコロナ禍で、孤独死(https://ai-deal.jp/column/post-2117/)というキーワードが浮き彫りとなっている。2014年に発行された「友だちの数で寿命はきまる ~人とのつながりが最高の健康法(https://amzn.to/3dSG5R7)」という本でも研究結果が紹介されているが、孤独は喫煙と同じくらい健康リスクがあるという。そして、残念なことに、日本の高齢者は諸外国とくらべ、地域から孤立していることも分かっている。
イギリスでは医師が「患者さんの医療的な問題が孤独や社会的孤立から発生している」場合は、医師が診断書を発行し、患者さんを地域コミュニティにつなげるという。日本との大きな差を感じてしまう。
本書で紹介されている「人間がかかるもっとも重い病気は『孤独』」という言葉が胸に響いた。そういった社会的な孤立や孤独から生じる問題に取り組む自治体の動きも紹介されている。私ももっとも重い病気である「孤独」を解消できる「場」を提供していきたいと、強く思った。そして、「当事者ファースト(医療・介護・福祉において医療介護従事者の都合ではなく、本人やそのご家族の意志を第一にすること)」の考えを常に忘れずに、事業を展開していこうと改めて思った。