「うらやましい孤独死」著者が語る日本の医療の地域移行|受け皿と在宅医の不足

アニスピわおんそのほか

 

 

今回は、「うらやましい孤独死(https://amzn.to/3eP9c8G)」の著者である森田洋之医師にお話をうかがった。

 

自らを「へんてこな医師」と名乗る森田氏だが、筆者は本を読んでまるでバザーリア(https://anispi.co.jp/etc/post-3153/)の医療改革のようだと思った。

 

その感想を率直に伝えると、森田氏は「そこまでじゃないですよ!」と照れて笑った。

 

森田氏は、1971年、横浜生まれ。一橋大学経済学部卒業後に、宮崎医科大学医学部に入学し直した「ヘンテコな医師」。宮崎県内で研修を修了し、2009年より財政破綻した北海道夕張市立診療所に勤務。現在は鹿児島県で「ひらやまのクリニック」を開業、研究・執筆・講演活動にも積極的に取り組んでいる。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。著書に『破綻からの奇蹟』『医療経済の嘘』『日本の医療の不都合な真実』などがある。

 

取材時は、急な往診の帰りで、往診先の道の駅から車内で取材に応じてもらった。

 

厚生労働省は現在、精神医療の分野で、イタリアのバザーリア(https://anispi.co.jp/etc/post-3153/)に習い、地域移行・脱施設化を進めている。しかし、欧米では成功しているのに、日本ではまだまだの地域移行。なぜ、日本ではなかなか進まないのかをうかがった。

 

「イタリアも結構大変だったみたいですけどね。

バザーリアも反対勢力・抵抗勢力から押し戻しにあったらしいです。

やっぱりそれで飯を食ってる人ってどこにでもいるじゃないですか」

 

一度できてしまったシステムには、お金の流れが発生する。それを変えてほしくないという人は一定数いる。イタリアでもそういう層がいたし、日本にも山ほどいる。

 

「具体的には言いませんが、既得権益みたいな部分ですね。

精神病院みたいな病床を持っちゃっているところは、そこが既得権益になっちゃっているので。

鹿児島にも500床~600床ある精神病院がありますが、入院じゃなくて地域で全部やりますといったら、病床ががら空きになっちゃう。

億単位で建てた病院をじゃあどうするの?ということになっちゃう」

 

多くの古い病院は借金を20~30年以上払っているから、とっくに返し終わっているかもしれない。しかし、職員は雇っている。

 

それでは、厚生労働省がグループホームなどへ精神病患者を退院させ、脱施設化や地域移行を進めていることを迷惑だと思っている精神科医もいるのか。

 

「大きく言わないけど、思っている人はいっぱいいると思います。

もしくは推進してくれてもいいけど、オレの食いぶちはギリギリ確保してくれよくらいは思ってる人はいっぱいいるでしょうね」

 

自閉症支援グッズ会社の社長の話を聞いていた際も、既得権益や利権という話が出たが(https://ai-deal.jp/interview/post-957/)いいものを広めようとなったとき、壁になるのはそこなのだろうか。

 

「グッズの話で言うと、補聴器ってめちゃくちゃ高いじゃないですか。

20~30万円する補聴器があります。

今、エアーポッズ(アップル社製のハンズフリーイヤフォン)ってありますよね。

これ、エアーポッズの偽物で、2,000円くらいで買えるんです」

 

森田氏は自分の耳のイヤフォンを指さした。

 

「これをiPhoneとつなげるわけです。

じいちゃん・ばあちゃんにこのイヤフォンをさせて、こっちがiPhoneで話せばつながるんです。

めちゃくちゃ音がでかくなる」

 

普通の補聴器は収音する場所と話す場所が同じところにある。よくスピーカーにマイクを近づけると、キーンという雑音が響くがそれをハウリングという。補聴器も同じで、スピーカーとマイクが近いとハウリングし、「ピーピー」という音がする。

「つまりスピーカーとマイクが近いとダメなんですよ。

iPhoneとエアーポッズで話した方がよっぽどいい」

 

今の世の中でスマートフォンを持っていない人の方が少ないのではないか。生活必需品のスマフォと2,000円のイヤフォンで代用できるのであれば、価格破壊が起こる。ユーザーには大きなメリットだ。

 

しかし、森田氏は地域移行が進まない理由は、それだけではないという。

 

「グループホームが少ないとか、受け皿の問題もあります。

精神科医療でなく高齢者医療でいうと、僕らみたいな在宅医がまだそんなにいないんですね。

在宅医はいるけど、ちゃんとした在宅医が少ない。

最期まで看取っている、研修を受けた在宅医がそんなにいない」

 

心を病んだり、障害があったり、高齢となった場合に私たちが安心して暮らせる場所はまだまだ限られている。既得権益はどうにもならなくとも、森田氏のような在宅医や居場所が増えることを願ってやまない。

 

田口ゆう