障害者グループホーム事業は儲かる?報酬単価の仕組み、収支を解説

事業をはじめたい方コラム

福祉事業は行政からの給付で運営される、安定した事業である。そんな福祉事業は実際儲かるのか?

今回は、障害者グループホームの報酬の仕組みやモデル収支を見ながら、障害者グループホームがお金の観点でどのように成り立っているのか、詳しく見ていきたい。

障害福祉事業のお金の流れ

通常のビジネス = 利用者に請求する

障害福祉事業  = 国民健康保険団体連合会に請求

障害福祉事業の法改正

2005年11月~ 「障害者自立支援法」

支援費制度の課題を解決するため制定。これまで障害種別ごとに異なっていたサービス体系を一元化するとともに、障害の状態を示す全国共通の尺度として「障害程度区分」(現在は「障害支援区分」という)が導入され、支給決定のプロセスの明確化・透明化が図られた。また、安定的な財源確保のために、国が費用の2分の1を義務的に負担する仕組みや、サービス量に応じた定率の利用者負担(応益負担)が導入された。

2010年 「障害者自立支援法」法改正 2012年4月~施工

2010年の法改正にて、利用者負担が抜本的に見直され、これまでの利用量に応じた1割を上限とした定率負担から、負担能力に応じたもの(応能負担)になり、2012年4月から実施された。

2012年6月~「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」 公布

2013年4月~「障害者総合支援法」

「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」の整備により制定され、その後、3年に1度、法改正を行う。

2016年「障害者総合支援法」一部改正

障害のある人が自ら望む地域生活を営むことができるよう、支援の一層の充実を図るため、また、就労移行支援事業所又は就労継続支援事業所から一般就労に移行する障害者数の増加を踏まえ、新たなサービスを創設。

  • 新たなサービスの新設(自立生活援助・就労定着支援・居宅訪問型児童発達支援)
  • 重度訪問介護の対象拡充
  • 共生型サービスの新設
    介護保険サービスの指定を受けた事業所であれば、基本的に障害福祉の指定を受けられるように基準の特例を設けたもの。
  • 情報公表制度の創設 等

2019年「障害者総合支援法」一部改正

  • 「新しい経済政策パッケージ」に基づく処遇改善(介護職員等特定処遇改善加算)の創設
  • 現行の福祉・介護職員処遇改善加算の加算率の一部見直し
  • 障害福祉サービス等に関する 消費税の取扱い等について
    消費税率10%への引上げに伴う障害福祉サービス等報酬改定については、本検討チームでの議論内容等を踏まえ、平成30年12月17日の大臣折衝において、課税費用について、障害福祉サービス等報酬で適切に補填することと、障害福祉サービス等報酬 +0.44%とすることを決定。等

2021年「障害者総合支援法」一部改正

  • 障害者の重度化・高齢化を踏まえた障害者の地域移行・地域生活の支援等
  • 障害者の効果的な就労定着支援および障害者雇用の質の向上の推進
  • 精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備
  • 難病患者等に対する適切な医療の充実および療養生活支援の強化
  • 障害者・難病等についてのデータベースに関する規定の整備
  • 災害や感染症の発生時も含めた支援の継続を見据えた対応
  • 障害福祉サービス等の持続可能性の確保と適切なサービス提供を行う報酬等の見直し

障害福祉事業の予算

障害福祉サービス関係予算額は15年間で約3倍に増加

障害福祉予算は、国の負担が50%、自治体負担が50%。下記のグラフは国の予算を示している。この中に、自治体負担額は含まれていないので、この約2倍の額が、障害福祉事業の総給付費となる。

参照:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001078142.pdf

障害者グループホームの報酬単価

  • 報酬の計算方法
    単位数×地域ごとの1単位の単価(地域区分)=報酬の総額
  • 基本報酬の単位(2021年~)
    障害者グループホームには、3つの類型がある。

各類型にて、区分ごとの基本単価が設定されている。設定については、以下の通り。

介護サービス包括型

日中サービス支援型

外部サービス利用型

地域ごとの級地単価(2021年~)

 

1級地 2級地 3級地 4級地 5級地 6級地 7級地 その他
共同生活援助 11.6円 11.28円 11.2円 10.96円 10.8円 10.48円 10.24円 10円

障害者グループホーム事業の報酬を増やす方法

障害者グループホーム事業の報酬を増やすには、先に説明した報酬構造の中の「算定する単位数」を増やすことだ。

では、その単位数を増やすには、どうしたらいいのか?

  1. ①基本報酬が大きい、区分の高い利用者を入居させる
    障害区分は、1~6まで存在し、区分1が軽度、区分6が重度とされている。障害の程度が重いと、障害区分が高く判定され、「障害の区分が重い=より手厚い支援が必要」とみなされ、その分、基本報酬が高く設定されている。
    ただし、その分、区分が高く判定されている利用者を受け入れるためには、全職員のスキルの高さを求められたり、必要人員が増加したりと、事業所側の対応が必要となる。また、職員のスキルが伴っていない状態で、障害区分が高い利用者を受け入れてしまうと、職員側の負担となり、離職にもつながりかねない。
    ①の方法では、報酬の増加は見込めるものの、職員のスキルアップに要する時間や必要人員の増加による人権費支出増加も見込まれるので、現場の状況をよくみて判断する必要があるだろう。
  2. 加算を取得する
    障害福祉事業には、事業者へよりよいサービスの提供を促すために、事業者が一定条件を満たしたサービスを提供したり、特定の支援を必要とする利用者の要望に合わせたサービスを提供したりすると、基本報酬に加えて報酬を加算する仕組みがある。これを「加算」と呼ぶ。
    障害者グループホームの加算には、以下のような種類が存在する。
    ・福祉専門職員配置加算(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)
    ・看護職員配置加算
    ・夜間支援体制加算(Ⅰ)~(Ⅵ)
    ・夜勤職員加配加算※日中サービス支援型のみ
    ・重度障害者支援加算(Ⅰ)(Ⅱ)
    ・日中支援加算(Ⅰ)(Ⅱ)
    ・自立生活支援加算
    ・医療的ケア対応支援加算
    ・入院時支援特別加算・長期入院時支援特別加算
    ・帰宅支援加算 ・長期帰宅支援加算
    ・地域生活移行個別支援特別加算
    ・精神障害者地域移行特別加算
    ・強度行動障害者地域移行特別加算
    ・強度行動障害者体験利用加算
    ・通勤者生活支援加算
    ・医療連携体制加算(Ⅰ)~(Ⅶ)
  3. 減算を発生させない
    ②で加算の説明をしたが、その反対に、障害者総合支援法で規定されている運営基準や人員基準、設備基準を守っていない場合、報酬から決まった単位数を引かれてしまう場合がある。これを「減算」と呼ぶ。
    障害者グループホームの減算には、以下のような種類が存在する。
    ・大規模住居等減算
    ・サービス提供職員欠如減算
    ・サービス管理責任者欠如減算
    ・個別支援計画未作成減算
    ・身体拘束廃止未実施減算

モデル収支(開設後の収支)

条件:介護サービス包括型 地域区分3級地 2棟8名居室を運営 区分2が3名・区分3が3名・区分4が2名

実費:家賃(1居室)42000円/月 日用品費5000円/月 水光熱費15000円/月 食費25000円/月 通信費500円/月
※利用者負担額で利益を出せないため、収支はイコールとなるよう設定

人員:管理者兼サビ管(常勤)30万/月 世話人・生活支援員(非常勤)1000円/時 夜間職員(非常勤・各棟配置)1250円/時

取得加算:夜間支援等体制加算(Ⅰ)、医療連携体制加算(Ⅶ)、福祉専門職員配置加算(Ⅰ)、処遇改善加算(Ⅰ)

倒産率

障害福祉事業は、行政からの給付費で運営を行う、安定した事業である。厚生労働省の資料によると、2019年障害福祉事業所数は、148,726ヶ所。また、東京商工リサーチによると、障害福祉事業廃業企業数は、2019年で30件とされている。

 

全体の数は事業所の数、廃業数は企業数しか行政より発表がなされていないため、障害福祉事業のみの廃業率の算出はできないですが、経済産業省が出している産業別企業当たりの事業所数(付表2)を基に全業種の1企業当たりの平均事業所数を算出すると、約13.7事業所となる。これを基に、障害福祉事業所数から企業数を求めると、 148,726÷13.7=10,855企業となり、障害福事業を行う企業数は、約10,855企業であると予想される。

10,855企業中30企業が廃業となると、障害福祉事業の廃業率は、0.27%となり、他業種と比較してもかなり低い数値となることが分かる。